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非常出口の音楽

非常出口の音楽

非常出口の音楽

作家
古川日出男
出版社
河出書房新社
発売日
2017-07-25
ISBN
9784309025896
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非常出口の音楽 / 感想・レビュー

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masa

バンド音楽が生まれることは控えめにいっても奇跡だ。魂とか祈りとか衝動とか、そう呼ぶしかないような、ナニかが宿る。なのに、バンド音楽が死ぬことは酷く容易い。メンバーの心が通わない。どうしようもなく凡庸な、それだけだ。世界のあちこちで非日常的なことが日常的に起きている。ループするライヴ盤にはたとえ鳴っていても、そのときを過ぎれば二度とは聴こえない音が封じられていて、終わりの手拍子は始まりの歓声と溶け合い、非常出口に一方通行で吸い込まれてゆく。他人が下す評価をミュートして、僕は付属するふたつの耳を信じて傾ける。

2019/11/09

さっとる◎

日常はいつだって非情で異常なので私は恒常的に非常出口を必要としている。そんな前口上。それはもちろん頭上とか市場とかG線上とかにあってもいいのだけど、できれば路上とか俎上とか日常的で、籠城にも耐えうるような身近なものがいい。聞こえなくなった声が悲しくても毎日は回るのだから。どこへ行ってもとりあえず帰る場所は必要なのだから。そんな当たり前すぎる毎日。生き残るのに必要なのは特別な一瞬じゃなくて、日常を非日常に変えてくれる、ささいな特別。それはお気に入りの音楽とか、繰り返し開いてしまう本とか、たぶんそんな近くの。

2019/11/30

さっとる◎

非日常っていいよなあと思う。日常に不満があるとかないとかそういうところを超えて、いいよなあって思う。でもそうそう日常が「非」になるわけもなく。その「非」にならない日常が「非」になる瞬間。もしかしたらそれは私が思うよりたくさん溢れているのかもしれない。予言としてのお天気番組。日々脱落レースが密かに開催される満員電車。宙から宙に移動するアップルヘッド。音に糸。それを見逃さないでいられるかどうかは、私次第。人には、ときに非常出口が必要だ、…。ひっそりそこにある奇跡に私はどれくらい気付けているだろう?

2017/08/03

Mishima

あの子は水たまりを蹴散らして泥水を浴びて通りを歩いた。さながら派手なパレードのように。10年後異国の街で僕は途方に暮れていた。前から半裸の女が歩いてくる。あの子だった。後ろから僕を追い越した、曰くありげな男とすれ違いざま、束の間手を繋いではなした。かすかな目配せと指のサイン。彼女の後をゆく。坂道をくだり曲がり角で踵を返し僕を見つめる。五センチの至近距離。彼女は掌を開いた。真紅の薔薇。粉々になって指からこぼれた。彼女の頭から泥水が滴り落ちた。その顔から笑顔がこぼれた。僕の思惑を真っ向から蹴散らす笑顔だった。

2020/03/02

メセニ

作者はあとがきでこう書いている。「この本は、誰かの人生に入り口があるとか、〜昏迷する時代からの出口はどこだとか、そういうことには一切関わっていない」。ただし、「人には、時に非常出口が必要だ、と、そのことだけを語ろうとしている」と。そうなのかもしれない、と思う。”非常出口”というフレーズから発想するものはそれぞれだろうけど、小説が好きな僕らにとって、例えばここに登録した本の一つ一つは一度は通った扉の痕跡かもしれない。この作品に理路整然としたものはきっとない。でも何かこう脱出の糸口となる着想が疼きとしてある。

2017/07/28

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