かこさとし先生の、ロックンロールなかっこよさを、 子どもの本を作る僕たちは忘れない。『小学一年生』編集長の未来はぴっかぴか♪ 第3回

出産・子育て

更新日:2018/5/26

 ただいま発売中の『小学一年生』6月号。本屋さんで見る表紙はこれですが、

 表紙を開くと、バーン! こんなワイド表紙になっているのです! 

 このドラえもん、なんか変ですね? たねあかしは、コラムの最後にて…。

advertisement

かこさとし先生の科学の本

 『小学一年生』発売日に合わせて更新されるはずのこのコラム。今月は〆切までに書けなくて更新予定日を見送っていたところに、飛び込んできたニュース。

 かこさとし先生が亡くなりました。5月2日。92歳。

 創作の情熱は生涯衰えず、今年に入ってからも『だるまちゃん』シリーズ(福音館書店)最新作を3作同時刊行したばかりでした。

 かこさとし先生。お会いしたこともない僕が書くにはおこがましいけれど、今回、追悼の意を込めてこのコラムを書かせていただきたい。

 かこさとし先生。『だるまちゃんとてんぐちゃん』(偕成社)や『からすのパンやさん』(福音館書店)も良いですが、僕にとってはやはり、科学の本の作家さんでした。『地球』『宇宙』『海』(いずれも福音館書店)、そして『ほねは おれます くだけます』(童心社)などなど多数!!

 かこさとし先生の科学の本は、何がすごいって、「ここから始まるの??」と驚くほどの、ものすごく近くて小さーいところから始まって、それが「ここまで描いちゃうの??」と驚くほどの、ものすごく遠くて大きーいとこまでいっちゃう、視点の切り替えです。ページをめくるごとに、クリックリッとレンズの目盛りを回しているがごとくに切り替わる。脳が喜ぶ気持ちよさ。

 たとえば『地球』。地球とは何か?を子どもに説明するときに、どこから始めるか。いきなり丸い地球の全体図とか宇宙に浮いている図とかではないのです。かこさとし先生の『地球』は、最初は、イヌといっしょに野原を駆けている少年の絵から始まります。

 そこに「わたしたちは ちきゅうに すんでいます。」という文。イヌが何かを見つけて地面を掘り返しています。そうか掘った先にも地面がつながっているよなあ。その横には草の根っこが伸びている地中の断面。アリの巣穴も描かれています。そうして、そうか僕らが見えている地上から、地面の下にまでつながっているんだ、という当たり前のことを認識させます。それがあってやっと、「ちきゅうのなかは いったい どんなふうになっているのでしょうか。」と、地下の話に入っていきます。でもそのあとも、木の根っこ、虫たちの穴、動物たちの巣穴、そして人間の地下利用…と、丁寧に丁寧に何ページもかけて地面の下を描いていき、最後の最後にやっと、地球のマントルやコアの話が出てくるのです。

子どもは自分の生活と地続きのことじゃないとイメージできない

 僕らが『小学一年生』を作りながらよく言っていることに、「子どもは、自分の生活と地続きのことじゃないとイメージできない」というものがあります。いきなり知らないこと、見たことのないことから始めてもイメージできない。イメージできないものは興味を持てないのです。

 逆に言えば、自分の生活に地続きのことから始めてやれば、そこからはかなり深いところまで説明してもついてきてくれます。もちろん、伝え方がおもしろければ…というのは絶対条件ですが。

 かこ先生の科学絵本は、基本的にすべてそのスタンスなんです。子どもがイメージできるところからしか始めない。だからときとして「このテーマを語るのに、ここから始めるの? いったい本論に入るまでどんだけかかるの?」と驚くようなものもあるのです。『宇宙』なんて、ノミのジャンプの話から始まりますからね!

学会が認めていないことでも、正しいと思うことを絵本にかく

 かこさとし先生は、東京大学工学部で学んだ工学博士でもありました。その科学に対する真摯な姿勢はなみなみならぬものがあります。

『地球』には、プレートテクトニクス論が説明されています。地球の表面は何枚かの堅い岩盤(プレート)に覆われていて、それらプレートが動くことで地震や火山噴火などを引き起こすという説です。

 今となっては常識として語られるこの学説は1960代後期に登場しましたが、日本の学会で受け入れられたのは1980年代になってからだそうです。

 しかし、この『地球』の刊行は1975年! つまり、日本の学会ではまだ認められていなかった段階で、かこさとし先生は絵本に取り入れていたのです!!

「絵本を書いていた当時はまだ仮説でしたが、これ以外にいい理論がなかったのです。地震のこと、火山のこと、その他のいろいろな地球内部のことを説明するにはプレートテクトニクス論が一番妥当であろうと。」とはご本人の談。

 すごい! かっこいい!! もうなんたる純粋さ! 学会が認めていなかろうと、自分で正しいと判断したことは絵本にかく!! この姿勢はもう、ロックンロールです!(僕の定義では、常識を疑う姿勢、慣習に囚われない姿勢がロックンロール。エレキギターをかき鳴らすだけがロックじゃないのです。)あえて言おう。かこさとし先生はロックンロールである、と。ちょっと「あえて」すぎますね? でも言っちゃう。

子ども向けに科学を伝えることが、素晴らしい未来につながる

 かこさとし先生は、科学絵本を描く際には、何十冊も資料を読み、研究者の論文まで読み込んでいたそうです。だからこそ自信を持ってかけたのです。

 そこにあるのは、子どもたちが大人になる20年後にも通用するような正しい科学的知識を伝えようとする真摯な姿勢。1冊の本を書くために集める資料は段ボール数箱分。資料保管のために家を建て、家の隣の土地を買い、離れの土地まで買って増設したといいます。

 そこから、どんな流れにすれば子どもたちが理解しやすいか、どんな絵をどんな配置で書くか、その構成を考えるのに作業全体の8~9割を割く、と言い切っています。絵を描くのは残りの1~2割。どんないい絵を描いても構成がダメならダメなんだ、と。『宇宙』は10年がかりで作り上げたそうです。

 たくさんの資料を集めて読み込んでまず自分が十分に理解して、今度はそれを元にどのような構成にするかにとことん時間をかける。

 子ども向けに科学を伝えるとは、そういうことです。

 こう書いている僕らは、かこさとし先生の足下どころか地下数mにも及ばない程度の時間しか、毎月かけていない。でも、及ばずながら、子どもの本を作るにおいては、実際に誌面に載せる情報の何十倍もの資料を集めて読み込んでいます。それは、僕ら『小学一年生』だけでなく、すべての子どもの本を作る人たちみんながやっていることです。

 平易な言葉とイメージしやすい例えを使って、子どもに説明して理解してもらうことは、実は、大人に向けて説明するよりも難しい。

 でもどうしてもそれをしなくてはいけない。子どもたちに正しい科学を伝えていかなくてはいけない。

 その理由は、かこさとし先生の言葉の中にあります。

 かこ先生は、子どもたちの、科学的な興味で追求したいという姿勢をアインシュタインと同じだとし、すべての子どもたちはそういう力を持っている、としたうえでこう語っています。

「そういう子を伸ばしてあげれば、未来は素晴らしい社会になるだろう」

 生涯で600冊以上の絵本を描かれたかこさとし先生。その半分近くが科学的な絵本です。それでもまだまだ全然足りない、とおっしゃっていたそうです。

 甚だ及ばずながら、及ばずながらではありますが、その志を胸に、僕らも子どもの本を作り続けていきたいと思います。

 かこさとし先生、ありがとうございました。

河出書房新社『かこさとし 人と地球の不思議とともに』

(※河出書房新社『かこさとし 人と地球の不思議とともに』収録の、林公代さんによるインタビューより、かこ先生の言葉を引用および、参考にさせていただきました。)

『小学一年生』6月号は子どもが身近な科学を楽しむための大特集!

 また他社の本の話ばっかりして…ということで慌てて、自分の本の紹介を!!

 ふろくは「ドラえもん くっきり むしめがね」!

 ドラえもんの顔をスライドさせると、虫めがねに変身! ボールチェーン付きだからどこにでも持って行けます。身の回りのものを何でも観察しちゃおう!

 そして、特集は「ミクロのせかい」。虫めがね、顕微鏡で観察することでわかったさまざまなビックリ知識を紹介しています。

 連載の「かがくじっけん」も、今回はレンズを使った5連発のスペシャル版。

 ふろくの「むしめがね」をセットして使う「さかさまスコープ」は、景色が逆さまに見えるおもしろふろく。そうです。実験好き工作好きにはピンとくる、ピンホールカメラを組み立て付録にしました。お手軽工作で楽しんでください。

 また、6月号ではなんと、『小学一年生』読者1000人超の写真を表紙に掲載するという無茶な企画も!

 このドラえもん、実は、読者のみんなの写真で作ったフォトモザイクアートなんです。ふろくの「むしめがね」で見ると、たっくさんの1年生のニコニコ笑顔を発見できますよ。

 実は私の娘(リアル小1)の写真もこの中に入っております。

 そして、大好評連載『プログラムすごろく アベベのぼうけん』は、でんしゃごっこのプログラム。4月号からちょっとずつ複雑なプログラムになってきましたよ。ぜひおためしあれ。

『小学一年生』6月号発売中!

『小学一年生』6月号

渡辺朗典
子どもの本を作りたくて小学館に入社。希望かなって『小学四年生』『ちゃお』『小学一年生』『ドラえもんふしぎのサイエンス』を経てふたたび『小学一年生』に戻り現職。趣味は工作。3人の子持ちでこの春から末の娘がぴっかぴかの小学1年生です。写真はウチの子ではなくて、小一モデル2018グランプリの2人です。『小学一年生』の最新情報はこちらから!

のび太に学ぶ!? 子どもを本好きにする方法・本嫌いにさせる方法 『小学一年生』編集長の未来はぴっかぴか♪ 第2回
「プログラミング」って「あたりまえ体操」のことですよ! 『小学一年生』編集長の未来はぴっかぴか♪ 第1回