綾野剛が選んだ1冊は?「打ちのめされても、瞼を閉じず世界を見つめ続けなければならない」

あの人と本の話 and more

公開日:2024/1/13

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年2月号からの転載になります。

綾野剛さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、綾野剛さん。

(取材・文=野本由起 写真=TOWA)

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「怪物です」

 そう言って綾野さんが差し出したのは、新井英樹さんの『ひとのこ』。

「敬愛する新井英樹さんの『ザ・ワールド・イズ・マイン』。出会った時から自分の中で核として生き続けている作品です。その新井さんが描いたとなれば、この作品も当然拝読させて頂きます」

 描かれるのは、現代版キリストによる救済の物語。この世は“ごっこ”だとうそぶく男の生きざまが、読者の脳を激しく揺さぶってくる。

「頭の中がカオティックになり、打ちのめされました。ただ、それでも瞼を閉じずに、いかにして世界を見続けるか。そこで瞼を閉じるか否かで人生は変わるのではないか。その選択肢は我々に託され任されている。世界を見つめ行動し続けたいと、この作品を読んで強烈に感じました」

 綾野さんにとって、マンガは「作品に従って読むもの」だそう。

「現実ではあり得ないことも“YES”と徹底して従う。従うことで得られる圧倒的な進化がありますし、それが作者やマンガという文化に対する敬意だと思っています」

 主演映画『カラオケ行こ!』の原作マンガも、綾野さんの愛読書だという。

「中学生とヤクザがカラオケルームにいれば、緊張感が生まれます。その中にも繊細さとユニークさがある、稀有なマンガです」

 その原作を“実写化”ではなく、“映画化”したのがこの作品だ。

「マンガの世界観を踏襲し、ディティールを丁寧に紡ぐのが実写化だとしたら、これは中学生とヤクザの会話を実寸大で描き、一本の映画に仕上げた作品です。原作には心の声が描かれていますが、映画では心の声として表現されていません。ですから、ふたりはどこまでも噛み合わない。噛み合わなさを表現するという勇気の要る芝居でした」

 そして生まれたのが、綾野さんいわく「たおやかで優しい青春映画」。

「青春を鋭く描いた作品が多い中、こういう映画が誕生したことに驚きと喜びを感じました。共演した齋藤潤君は役と同じ15歳で、撮影中に変声期が来て背も伸びて。そんな彼の魅力を描こうとみんなで想いを集結させた現場だったからこそ、たおやかな映画になったのだと思えてなりません。2回観ましたが、2回目は受け取る情感が変わり何倍も面白かった。こんな経験は役者人生で初めてです。ぜひ多くの方に観ていただきたいです」

ヘアメイク:石邑麻由 スタイリング:三田真一(Kiki inc.) 衣装協力:コート96万8000円、シャツ24万6400円、パンツ12万2100円(すべてヴェルサーチェ/ヴェルサーチェ ジャパン)

あやの・ごう●1982年、岐阜県生まれ。2003年デビュー。近年の出演作に、ドラマ『ハゲタカ』『MIU404』『アバランチ』『オールドルーキー』、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』、映画「新宿スワン」シリーズ、『楽園』『ヤクザと家族 The Family』『最後まで行く』『花腐し』などがある。

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映画『カラオケ行こ!』

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(c)2024『カラオケ行こ!』製作委員会