少女は女王を倒して新世界で居場所を手に入れる 『GOSICK BLUE』桜庭一樹インタビュー
公開日:2014/12/6
「正月に餅を買えなかった」毎年繰り返される祖母の話
三者三様の移民のヒロインを並べる一方で、ブルーキャンディ家の一族もまた移民の歴史の象徴として描かれる。巨大コンツェルンを一代で築き上げたラーガディア。努力家で勤勉な彼女の息子はニューヨーク市長になるが、孫息子のボンは実家を飛び出してコミック作家になる。希望と野心で新世界をサヴァイヴしてきた移民一世、そんな親の苦労を見て育ったため堅実な道を選ぶ二世、満たされた環境ゆえに自分探しに悩む三世。
「一番読者に近いのは『俺に向いている仕事がなんかあるはず』って悩んでいる三世ですよね。私の祖母は元お嬢様だったんですが、戦後は満州から子どもを連れて引揚船に乗って、苦労して日本に帰ってきたんです。その後に小さいお店を始めたものの、大晦日に従業員にお金を盗んで逃げられたこともあったそうで、『あの正月は餅も買えなかった』という思い出を正月になると必ずする。家族としては毎年のことなので『また泣いてる』みたいに聞き流すんですが(笑)。その祖母の娘である母は真面目な人で『何か資格は取っておいたほうがいい』と言って私も育てられたんですが、結局はふわっと小説家になってしまった。アメコミ描いているボンと一緒です。でもその人がどんな人間になるかって環境がすごく大きい」
移民と言われてもピンと来ないかもしれないが、上京という言葉に置き換えれば共感できる人は多いだろう。新しい環境でささやかな自分の居場所を手に入れる。ただそれだけのことがいかに難しいか。
「大学に入って一人暮らしをするとか就職して引っ越すとか、変化のときって誰にでもあるもの。そんなときに新しい生活でどんなふうに頑張って、他人と助け合っていくかという物語でもあるので、シリーズ未読の方もそういうところから入っていただけるかな、と思っています。今回の『BLUE』と『RED』で新シリーズの基盤が固まったので、次作では戦って獲得するというよりは、二人がゆっくりと何かを見つけていく、〝生活〟をつくっていく物語になるような気がしています」
取材・文=阿部花恵 写真=冨永智子
『GOSICK BLUE』
互いの絆だけを頼りにニューヨークに降り立ったヴィクトリカと一弥を待ち受けていたのは、高層タワーで起きた爆破事件。背景には新世界で圧倒的成功を収めた“女王”の過去が関係していた。名探偵ものの様式美とゴシック・ホラー要素、個性豊かなキャラクターの魅力が一体となった大人気ミステリー・シリーズの新章第2弾。
〈好評既刊〉
『GOSICK RED』
桜庭一樹 KADOKAWA 角川書店 1100円(税別)
新天地ニューヨークで〈グレイウルフ探偵社〉の看板を掲げることになったヴィクトリカ。新聞記者見習いとなった一弥と共に、ギャング連続殺人事件を調査に取り掛かるが……。新シリーズ第一弾。