ジャニーズ事務所から小説家誕生! デビュー作『ピンクとグレー』で見せつけた小説への意欲

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

一度読んだら忘れられないレベルのものを書きたかった

無意識のうちに小説修業をしてきた

 つい物語の構成の巧さに目がいってしまうが、加藤は言葉へのこだわりも強い。

「自分の美的感覚から外れていない文章でありたいって意識は、最初から強かったです。今までエッセイとかコラムで書いてきた文章って、アイドル雑誌に掲載されるものだったから、難しい言葉とかは全部変えなきゃならなかったんです。言ってしまえば、エッセイは読み手に迎合してる。でも、これはしていない。編集さんが“ここの表現を直してほしい”と言ってきたときも、その通りだなと思えば直すし、これはこのままでいくと自分が決めれば、そのままでいく。小説って一字一句全部が自分。自分の本当に書きたいことだけを、ここで書けたと思います。他の人がどう思うかはわからないけど、“俺は好きだよこれ!”っていう(笑)」

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 加藤はNEWSの活動で、歌詞を書く経験も重ねてきた。

「歌詞のときは言葉をもっとシンプルにします。小説だと言葉のビジュアル的な部分を使えるんですけど、歌詞は耳でしか聞こえないので」。

 エッセイ、歌詞、ライブのMCなど、さまざまな場で磨き上げてきた感性が、ここで発揮されていることは間違いない。ちょっとした修業のようなことも、かつてやっていたそうだ。

「例えば街を歩いているときに、“誰々は歩道橋の上を歩きながら何々について考えていて……”とか、頭の中で今の状況を小説的に言ってみる、みたいな遊びをやってたことはありましたね。あとは、本や雑誌を読んでいてわからない言葉にぶつかったら、必ず調べる」

 もうひとつ、ストーリー作りにおいて大きな鍛錬となったという意外な方法を教えてくれた。

「映画を観て、その映画について評論家が書いたレビューを読んで、ってことを繰り返してきた経験は大きかったと思います。映画評論を雑誌で読んだりラジオで聞いたりすると、なぜこの映画はダメなのか、面白くなかったのはなぜかっていうのがわかってくる。“あの場面であんなエピソードじゃあ、こいつのこと好きにならないな”とか、“この論理が破綻してるから、物語の筋が通ってないんだ”とか。そんな細かいこと、面白ければ別にいいじゃん、って人も意外と多いと思います。でも、僕は気になっちゃう。なんか気持ち悪いんですよ。だから自分で小説を書いたときも、話の中でおかしな箇所はないかっていう確認作業は何回もやりました。“ここは前のところと気持ちがつながってない”とか、“この状況でこいつはこんなことしゃべれない”とか。そういうものをどんどん削除していって、全体をなめらかにしていく。その作業には本当に時間をかけましたね」

 初期衝動に任せて突っ走って書いた、だけじゃない。その後、丁寧に丁寧に推敲を重ねた結果が、『ピンクとグレー』の作品性を高めたのだ。
 

この一作では終わらせない。書き続けます

 昨年の大晦日から元旦にかけておこなわれた「ジャニーズカウントダウンライブ」で、4人組となった新生NEWSの活動がスタートした。加藤は今、小説家という新たなステージを得た喜びとともに、NEWSとして活動できる喜びも噛み締めている。

「運命みたいに出会った4人だから、この関係を楽しんでいきたい。個々の活動が4人での活動の刺激になれば、面白いんじゃないかって。実際、今、キャスターやってるやつもいれば、サッカーをやったりバラエティで頑張ってるやつもいて、みんなが自分の好きなこととか自分の強みとかを出すようになっている。僕自身も、NEWSでの活動が小説に還元されて、小説での活動がNEWSに還元されるっていう相乗効果も間違いなくあるはず。うまく両立できればいいなと思っていますね」

 二作目もすでに書き始めているという。

「自分がしてきた特殊な経験は他にはない強みだとは思うので、まだしばらくはアイドルを主人公にしたものを書きたいと思っています。キャラクターも増やして、女性アイドルの話にしようかなとか、いろいろ考えてます。『ピンクとグレー』は一人称なので、次の小説は三人称でやってみたい、とか。実際そうなるかはわからないですけどね。間違いなくいえることは、次に書くものも明るくポップなものにはならない(笑)。純粋に好きなんですよ。ホラーというか、怖い話。狂気とか狂乱してく感じが。純粋なラブストーリーとか、照れくさくて絶対書けないです」

 加藤シゲアキは、ジャニーズのアイドルという知名度を利用して、小説家として世に出たのではない。アイドルとして活動してきた実人生の経験を武器に、魅力的な小説を書き上げた。それが周囲に評価されたからこそ、小説家としてデビューすることができたのだ。

「普段あまり小説を読まない人も楽しめるような作品になっていると思うし、本が好きな人にもきっと楽しんでもらえるんじゃないかと。それだけのものを詰め込んだ自信はあります。

 小説を一回書くことは、まぐれでできることだと思うんです。大事なのは書き続けていくこと。少なくとも、本屋さんに自分の棚が一列できるくらいは書き続けたい。小説の世界で勝負し続けたいです」

(取材・文=吉田大助)

紙『ピンクとグレー』

加藤シゲアキ / 角川書店 / 1300円

河田大貴は、親友の鈴木真吾とともに青春時代を過ごしていた。二人はアルバイト感覚で芸能界に入るが、ひとりは売れ、ひとりは売れなかった。二人の関係性は引き裂かれ、別離を選択してしまう。だが──。全14章一気読み必至。3分の2を超えたところであらわれる美しくも非現実的な光景、現実と妄想が入り乱れるラストシーンは、読む者全ての心に焼き付いて離れない。

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