“スタジオジブリからのアニメ化の申し出を断った”?『旅のラゴス』はフェイクニュースで得をしていた! 筒井康隆×塩田武士『騙し絵の牙』対談【後編】

エンタメ

2017/12/8

 小説のジャンルとスタイルの改革者・筒井康隆。出版界を舞台に、実在の俳優をあてがきした『騙し絵の牙』を8月31日に発表し、その新感覚小説に話題沸騰中の塩田武士。奇跡の作家対談が実現!


■「助走」を見せることでワクワクさせられないか?

塩田 今日対談するにあたって、先生の年表を確認させていただいたんですが、一番びっくりしたのが、あの『文学部唯野教授』と、あの『残像に口紅を』を、同じ時期に連載されていたことなんです。どちらか一つを書くにしても、僕からしたら気が遠くなるような作品なのに、超人的すぎます。

筒井『罪の声』の後に出したのが、『騙し絵の牙』ですよね? 明らかに、今回のほうが進歩している。肩の力が抜けているよね。この書き方で、どんどんやっていけばいいんじゃないかな。

塩田『罪の声』の時は、編集者からの脅迫もあったんです。「あんた、これが売れんかったら危ないで」と(笑)。確かに、21歳の時に着想して15年間温めていたネタなので、これがダメだったらもう自分には打つ手がない。そういった緊張感が出ている作品なのかなと思います。『騙し絵の牙』を書いている時は、心境がまったく違いました。

筒井 僕が心配なのはさ、これを読んだ小説家志望の連中が、作家になるのを諦めちゃうんじゃないか。エンタメにしろ純文学にしろ、今すごい才能が出てきているんだよね。まだまだ隠れた才能がいっぱいあると思うんだけど、その連中までがこれを読んで諦めちゃったらね、元も子もない。

塩田 この本が売れたら「出版界はまだまだ希望があるぞ!」と思ってもらえるんじゃないかな、と。

筒井 だったらなおさら、売れなきゃダメだね。

塩田 そうなんです!(笑)

――30年前に発表された筒井さんの『旅のラゴス』(1986年単行本刊)の文庫版がここ最近、空前の大ヒットとなっています。「本はいつか、いつだって発見され得る」という事実は、出版業界の人々に勇気を与えたと思うのですが、ご自身はどのように分析されてらっしゃいますか?


筒井 あれはねえ、僕も最初はなんで売れ出したのか分からなかった。編集者に調べてもらったら、きっかけはtwitter なんですよ。「スタジオジブリが、『旅のラゴス』をアニメ化したいと言って筒井のところへやって来た。筒井はイヤだと言って断った」っていう、デマがtwitterで広まったんですね。そのデマを、書店でポップに立てた人がいるんだよ。それで売れ始めた。

塩田 えーっ!!

筒井 真相を知って、新潮社に「すぐスタジオジブリへ連絡してくれ」って。「あれはデマです、と伝えてくれ」と言っといた。でも、それから話はないんだよ。スタジオジブリがアニメ化してくれるなら、こっちは御の字なのにさ。

塩田 僕は今、フェイクニュースとかポストトゥルースについて自分なりに考えた、〈後報〉シリーズという連作を書いているんです(『小説現代』不定期連載中)。いや、まさかフェイクニュースでこんなに得をした方が出版界にいらっしゃるなんて!

筒井 僕はフェイクニュースとか炎上で、得ばっかりしてるよ。

一同 (笑)

塩田 筒井先生がかつておこなわれていたことを、形を変えて今やるとしたらどうなるだろうとたまに考えるんですよ。例えば『朝のガスパール』(1992年単行本刊)は、パソコン通信を通じて読者と繫がり、読者の意見を小説に反映されていったじゃないですか。今は「親近感」と「透明性」に好感度が集まる時代だと個人的に思っているんですが、『朝のガスパール』はまさにそれでした。

筒井 今やるとしたら、twitter でしょうね。

塩田 そうですね。twitterと、Webメディアと。『朝のガスパール』とまったく同じことをやるのは難しいなと思うので、新作小説の創作過程を開放していったらどうだろうかと妄想しています。いわば「助走」の部分を見せることで、「どんな本になるんだろう? 本が出たら読んでみたい!」と。『騙し絵の牙』でも結局、自分は何を一番読者に提示したかったかというと、そういったワクワク感なんですよ。

筒井 それを実行するとしたらtwitter を利用して、まず炎上させなきゃダメですね。お手伝いをしますよ?

一同 (笑)

――残念ながら、終了のお時間が来てしまいました。

塩田 炎上もそうですし断筆宣言も、何でも創作に反映させられる先生の強さは、僕の根本のところで心の支えになっています。今日は本当にありがとうございました。

筒井 いくら市場が縮小しようが、文の芸術としての小説というものは細々とながらもずっと残ると思いますよ。

塩田 たくさん勉強させていただきました!

取材・文:吉田大助 写真:干川 修

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■プロフィール
筒井康隆(つつい・やすたか)

1934年、大阪府生まれ。1960年、作家デビュー。「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」と謳った『モナドの領域』で2016年度毎日芸術賞受賞の他、賞歴多数。『時をかける少女』『虚人たち』など膨大な著作を持つ。

塩田武士(しおた・たけし)
1979年、兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2010年、『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。12年より専業作家に。16年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞し、17年本屋大賞3位に輝く。