【前編】運命に導かれた奇跡的なコラボレーションで生み出された最高の電子書籍図鑑

新刊著者インタビュー

更新日:2013/7/22

――しかし、日本語がわからない英国サイドとのやりとりは、相当大変だったのでは?

糸川:ホント、大変でした(笑)。だって、タッチプレスには日本語がわかる人が一人もいないんですから。なので、Skypeでプロジェクトマネージャー、プログラマーと会議をやりながら、ああでもない、こうでもない、と議論しました。面白かったのは「月」のやりとりです。「あのMoonを意味する漢字があるでしょ?」「ああ、ショッピングカートね」「ん??」という会話をしましたね。なるほど、月はスーパーマーケットのショッピングカートに見えなくもない(笑)。文字校正をするときは、スクリーンショットを取り込み、Photoshop Elementsを使って丸で囲んだり、矢印を付けたりして、正しい文字を指示する……なんて苦労もありました。

 

advertisement

まったく日本語がわからない英国側の開発スタッフとのやりとりは苦労の連続。画像を取り込んでの校正作業やSkypeを使っての会議が続いた

 

――『太陽系』は翻訳の電子書籍にありがちな無機質さや違和感が一切ありません。翻訳のクオリティの高さを感じます。どんな翻訳をされたのでしょうか。

糸川:僕の翻訳スタイルは逐語的に訳すのではなく、著者が何を伝えたいかの全体像を理解して咀嚼し、もっとも適した日本語にしていきます。このやり方は手間がかかりますし、事実関係を含めて調べなきゃいけないことも膨大ですが、こうした積み重ねで違和感のない日本語にできたと思っています。
また、これまでチャウンの『僕らは星のかけら』を含めて、僕自身、物理学や数学の翻訳を数多くやってきた蓄積がありますから、読みやすく、美しい日本語表現を目指しつつ、論理的整合性がとれているか、内容を緻密にチェックしていきました。そういう論理的な面でも一貫しているので、読みやすい作品になったのでしょう。

最初は翻訳の依頼だったのに、最終的にはデバッグや文字検索アルゴリズムの提案、日本でのマーケティングまで一人で行った糸川さん。「紙の書籍の翻訳とは比べものにならないほど大変な仕事でした。しかし、この仕事で電子書籍の可能性と広がりの手ごたえも感じました」と話します。

次回は、『マーカス・チャウンの太陽系』を熟知した翻訳者だからこそ知っている使い方、そして、ぜひ気づいておきたい読みどころについてお話をうかがいます。

電子マーカス・チャウンの太陽系

タッチプレス/App Store/iPad/1200円

数々のベストセラーを世に送り出したサイエンスライターのマーカス・チャウン氏と『元素図鑑』でおなじみのタッチプレス社による、太陽系をテーマとしたビジュアル情報満載のインタラクティブな電子ブック。実際の科学データに基づき、ディテールにこだわって作成された美しい3D素材や動画、画像、アニメーション、イラストが、著者の魅力あふれる文学的な文章を一層引き立てている。

作品を読む