伊坂幸太郎と朝井リョウが初対面! 前代未聞の作家競作企画「螺旋プロジェクト」完結までに何があった?

小説・エッセイ

2019/4/24

「螺旋プロジェクト」の立ち上げに関わった伊坂幸太郎(担当は〈昭和後期+近未来〉)と、最年少参加となった朝井リョウ(担当は〈平成〉)。2人は「螺旋」をきっかけに初対面を果たし、共通のテーマについて語り合う中で関係を深めていった。休憩中も笑い声が絶えない、2人がここまで仲良くなった理由は、「螺旋プロジェクト」の独特な執筆体制にアリ。連載の経緯を振り返りながら、単行本刊行の喜びを語り合ってもらった。

伊坂幸太郎
いさか・こうたろう●1971年、千葉県生まれ。2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。04年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、『死神の精度』で日本推理作家協会賞、08年に『ゴールデンスランバー』で本屋大賞および山本周五郎賞を受賞する。
朝井リョウ
あさい・りょう●1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で直木三十五賞を戦後最年少で受賞。14年、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。原作を提供した映画『チア男子!!』が5月10日より公開。

 

──「螺旋プロジェクト」に参加する8組9名の作家が東京に集まり、自分たちがどんな話を書くのか、定期的に会議を開いていたと伺っています。実際の会議はどんな雰囲気だったんですか?

朝井 伊坂さんのおかげで終始和やかに、和気あいあい、でした。場がシーンとなりかけた時も、いつも伊坂さんが喋り出してくださったんですよ。地方からいらっしゃる方がお土産を持ってきてくださって、毎回ご当地お菓子が食べられるのも、甘い物好きとしては最高でした(笑)。

伊坂 朝井さんは、最初の2回くらいは会議中、ほとんどしゃべらなかったんですよね。心配になって声をかけたら、「『対立』で自分が描くべきテーマが見つからなくて、発言をする資格がないような気がしてしまって……」と。僕は今回、全員共通で「対立」という構造を盛り込むことを提案したんですけど、それは書きやすいかなと思ったからなんですね。物語って、対立で起こるものだから。そうしたら、〈平成〉の朝井さんもそうだし、〈未来〉の吉田篤弘さんも「この時代に対立って、書ける?」と悩まれたらしくて。

朝井 平成って学校の成績表が相対評価ではなく絶対評価になったり、「ナンバーワンよりオンリーワン」という歌が流行ったりして、むしろ対立がなくなっていった時代だったなと思うんです。だから、どうしよう、物語が思い浮かばない……と震えている期間が長かったです。じゃあ、そもそもなんで引き受けたのかというと、学校でたとえると、すごい先輩から呼び出されたみたいな状態だったわけですよ。ある日編集さんがやって来て、“文壇高校”の伊坂パイセンが競作企画をやろうとしているんだけれども、あなたの名前があがりました、と。そんな呼び出しがかかったら、行かなきゃいけないじゃないですか、絶対。

伊坂 おかしいですよ、その譬え!(笑)。僕の立ち位置を完全に見誤っている。

朝井 伊坂パイセン、自分のこと知ってるんすか!? え、パイセンに会えるんすかあ!? みたいな感じだったんですよ。だから「対立」で小説を書くっていうことについては、深く考えずに会議に臨んでしまいました。その結果、ふさぎこむという最悪の展開です(笑)。

──そうした葛藤が着想に直結して、『死にがいを求めて生きているの』ができあがったんですね。人と比べたり人と競い合うことを推奨されなくなった、平成という時代ならではのお話でした。

朝井 このプロジェクトがなければ、対立というテーマで小説を書くことはなかったと思います。参加して本当に良かったです。

伊坂 1回目の会議では僕がざっくり作った設定とかの資料を配って、2回目で共通モチーフをみんなで話し合って。3回目の会議がプロット発表会だったんですけど、朝井さんのプロットがすごかったんですよ。全10回の原稿の構想が、最後まできっちりできていたんです。めっちゃボリュームがありましたよね。

朝井 〈昭和前期〉の乾ルカさんもボリューミーでした。

伊坂 その2人が特にすごかった。僕は普段小説を書く時に、プロットを立てないんですよ。今回はA4レポート用紙で1枚分ぐらい書いて、頑張ったなぁ、これは褒められちゃうな、と思って会議に行ったら、一番少ないくらいで(笑)。

朝井 私はプロットって、最後の展開までかっちり作るけれども、編集さんには見せないんです。プロットだけ読んでも伝わらないだろうと思うし、書いた文章で判断してもらいたいと思ってしまって。人にプロットを見せるってこんなにプレッシャーがかかることなんだって、初めて実感しました。他のみなさんも結構緊張していたと思うんです。でも、発表が終わった後に必ず、伊坂さんが褒めてくれるんです!

伊坂 だって、みなさん本当に面白かったから。

朝井 いいところを見つけてくださるだけじゃなく、気になるところがあったら言ってくださるんです。例えば、私のお話は終盤でミステリーっぽい仕掛けを用意していたんですが、プロットの段階では「仕掛けありき」になっていて、人間はそんな思い通りにうまく動かないよなぁという部分があった。それを、プロット発表会の時に伊坂さんが見つけてくださったんです。

伊坂 そんなことありました?

朝井 私ははっきりと覚えています。なぜなら感激したからです! 短時間で私のプロットの問題点を発見して、丁寧に言及してくださった時の伊坂さんの声は、今も耳に残っています。

伊坂 やはり僕レベルになると、見えちゃうんだなぁ、理想の小説のかたちが……。

朝井 今の言葉、太字で抜粋してほしい。「見えちゃうんだなぁ」。

伊坂 嘘、嘘ですよ!(笑)。何も見えないです。

朝井 伊坂さんが本当に素敵って思うのは、連載中も毎回、感想を送ってくださったんですよ。「伊坂幸太郎が朝井リョウの小説を面白がって読んでいる!」って、すごく励まされました。

伊坂 阿部和重さんと『キャプテンサンダーボルト』という合作小説を書いていた時に、お互いに原稿の感想を言い合って作ったんですよ。その時の経験があるのかもしれませんが、僕が今回のプロジェクトでお役に立てることがあるとしたら、簡単な言葉でもいいから感想を言うことかなぁとは最初から意識していました。

朝井 プロジェクトの発起人としての責任感がすごいです。

伊坂 そこも誤解があって、僕が旗揚げしたわけじゃないんですからね(笑)。中央公論新社さんから「作家何人かの競作企画に参加しませんか?」と声をかけられて、やるんだったら共通ルールがあったほうがいいですよねって、簡単な企画書を作っただけなんです。

朝井 改めて思いましたけど、それって発起人ですよね!?

伊坂 でも、編集さんに「伊坂さんが設定を考えたから、好きな時代を選んでください」と言われたんですが、「ちなみに平成はもう朝井さんが押さえてます」って言われましたよ。じゃあ自由に選べないじゃん!(笑)。

朝井 ヤバイ最下級生だ!

 

伊坂作品の甘じょっぱさ 朝井作品のチャレンジ

さん

──伊坂さんは発起人としての仕事もしつつ、〈昭和後期〉の『シーソーモンスター』と〈近未来〉の『スピンモンスター』、2作の執筆を手掛けています。2つの時代を書いた理由とは?

伊坂 長編は、先に書かなきゃいけない他社との約束があったんです。「中編なら大丈夫です。そのかわり2本書きますね」という話だったんですよ。

朝井 今初めて知りました!

伊坂 書いてみて思ったのは、中編2本よりも長編1本を書くほうがラクだったな、と(笑)。

朝井 世界を2つ考えなきゃいけないわけですもんね。しかも、どちらも中編とは思えない展開の濃さがあります。

伊坂 他のみなさんは連載10回で1本書くところを、僕は5回で1本終わらせなければいけない。編集さんから「相当タイトに話を進めていかないと収まりませんよ」とアドバイスしてもらって、どんどん話を進めていくことにしたんです。

──〈昭和後期〉の『シーソーモンスター』で描かれる対立は、米ソの冷戦を背景にしながらの、嫁姑問題でした。発想に度肝を抜かれました。

伊坂 わりと安直に「嫁と姑のバトルでも書けばいいんでしょ?」って感じだったんですよ。でも、書き始めたら大変で。「あら、なんとかさん、ここにホコリが残っているわよ」みたいなやり取りしか、意外と思いつかなくて(笑)。

朝井 ……類型化されてますよね。

伊坂 だから、なかなかバトルが起きないんですよ。それもあって“ある設定”を導入することにしたんです。

朝井 『シーソーモンスター』もそうだし、私が伊坂さんの小説を読んでいてよく思うのは、人が人のことを好きになる瞬間の説得力というか、場面作りが本当に素敵だなあって。「これこれこうなって好きになった」っていうことを、「好きになった」という言葉を使わず、シーンで表現されているんです。印象的なシーンを細かく重ねてくださるので、読んでいるうちに登場人物の人格を理解しつつ、読者も一緒にその人をどんどん好きになっていく感覚があります。

伊坂 嬉しいなぁ。

朝井 私の小説の弱いところは、可塑性っていうんですかね。外からのちょっとした衝撃で、形が変わってしまうもろさがあるんです。それもあって今回のプロジェクトでは悩むことが多かったんですね。例えば、全員の作品で「長老」を出すってなったけど、自分の小説でそういう存在を出すことは、相当難しかったし影響も大きかった。でも伊坂さんの場合は、どんな材料を投げ込まれても「伊坂幸太郎の小説」になりますよね。

伊坂 ワンパターンなんです。

朝井 いや、伊坂作品の地盤の強さみたいなものを感じました。伊坂作品特有の、思いが時空を超える瞬間の輝きだったり、人の心を信じようと思えるようになるポジティブなものを、今回いろんな条件がある中でも成立させていたじゃないですか。すごいです。

──そうした要素は、〈近未来〉の『スピンモンスター』でも鮮やかに実現していますよね。機密事項を手紙で届ける「配達人」の主人公が、国家規模の対立に巻き込まれる話です。

伊坂 近未来だからってあんまり未来っぽい話にしたらつまらないなぁと思ったんですよ。未来だけどアナログのほうが面白いよね、と。いつもの作風と一緒で、甘いでもしょっぱいでもなく、「甘じょっぱい」を目指しました。

朝井 『スピンモンスター』はフェイクニュースとか、今の世の中で危惧されている題材をいろいろ盛り込んでいるように読めました。警鐘を鳴らしたい、とかではないと思うんですけれども。

伊坂 警鐘を鳴らしたい、はないですね。プロットを立てないから、その時自分の考えていることが自然と入ってきちゃうんですよ。

朝井 実は、今回改めて伊坂さんの小説と向き合って、めちゃめちゃ反省しました。私の小説は……演説が多い! 伊坂さんは絶対しないじゃないですか。あったとしても一行だけ、みんなが「ここだよね!」と思えるような、グッとくる文章をスッと差し込んでいる。

伊坂 僕も演説みたいなものはあんまり好きじゃないんですけど、朝井さんの小説を読んで演説っぽさは感じなかったですよ。

朝井 最後の2話の畳み掛けとか、大丈夫だったか今でも不安です。

伊坂 最後の2話は、語り口がチャレンジングじゃないですか。例えば、過去の映像と現在の状況が、シンクロして語られていく場面がありますよね。あれって技術的に相当大変だし、読者に伝わるか不安にもなると思うんですよ。でも、チャレンジしているから、すごいと思って。僕はやりたくても、最終的にやめちゃうかも。

朝井 演説になってしまうぶん、せめてそういうところだけでも工夫しなきゃという感じで……。

伊坂 最終話も、視点人物がモノローグせざるを得ない状況にいる。そういう演出がすごく効いていて、たとえ長い台詞であってものみ込みやすくなっているのかなあ、と思いました。

朝井 ……すみませんでした。

伊坂 なんで謝るんですか! 褒めてるのに責めるみたいになっちゃうじゃないですか!(笑)。

 

読み比べたくなる要素いっぱい入っています

──お2人の作品は「螺旋プロジェクト」の中でも、対立そのものを描きつつ、「そもそも対立とは何か?」というメタ視点が利いていると思うんです。選択した時代の問題なのでしょうか。

伊坂 僕はフィクションを書く時に、物語全体を俯瞰で見たいって気持ちが強いんです。争いって怖いものだから、少しでも怖さを減らすためにも分析しておきたいっていう、僕自身の嗜好の結果なんですよね。朝井さんはもっとナチュラルな感覚で僕と同じような感覚を書いている気がします。現実から半歩引いて、俯瞰する視線というものが日常的に入り込んでいる、みたいな。

朝井 そうかもしれないです。そこに「平成」が出ていればいいな、とも思ったりしています。

伊坂 出ていますよね。上の世代の感覚とはやっぱり、どこか違う。そのうえで、平成世代とか若者たちに限らない、普遍的な話を書かれているじゃないですか。虚栄心とか、僻みとか、自己の生きがいっていうものに対する痛々しさとか辛さ。

朝井 上の世代の読者から「そんなことに悩んでるの?」と、呆れられるかもな、とも思っています。

伊坂 ここに書かれているのは誰しもが持っている、あるいは持っていたものだと思うんですよね。朝井さんが書くものは、決して若者特有のものではなく、普遍的なものであるということが、この一作によく出ていると思います。代表作と言っていいんじゃないですかね。

朝井 ……今って、夢ですかね?

伊坂 な、なんですか、それは(笑)。

朝井 伊坂さんは、実感を伴う言語化力がとてつもないんですよ。どちらの話も「対立とは何か?」っていう流れになった時に、伊坂さんが見つけた言葉がすごくしっくりくる。『シーソーモンスター』では「対立」のことを「相性」って言い換えるじゃないですか。『スピンモンスター』では〈aとbの対立からcが生まれる〉。「なるほど!!」と。私は強すぎる言葉を選んじゃう癖があるんですけど、身に覚えのある言葉で表現してくださるから、自然と頭に残るんです。

──お2人の作品を皮切りに、螺旋プロジェクトの成果が順次刊行されていきます。読み比べてみる楽しさもありそうですね。

朝井 みんなで一斉に、同じモチーフを書いた回があったんです。やってみようよって、伊坂さんが発案してくださって。

伊坂 連載でいうと第6回の時ですね。Netflixで『センス8』というドラマをちょうど見た頃だったんですよ。世界各国に8人の主人公がいるんですけど、何話目かで、8人が生まれた時の場面がえんえんと繰り返されるっていう演出があって、ただシーンが重なっていくだけなのになぜか感動的で。それと同じようなことができないかなと思った時に、同じ回で、同じ場面が出てくるっていうのは面白いんじゃないかな、と。予定外で考えなきゃいけないことも増えるし、結構大変じゃないですか。「やろう!」と言ってくれる人が集まってくれているから、ありがたかったですね。

朝井 会議で決まったのが、「夕暮れ」「『対立』についての対話」「何かがこわれる・こぼれる」「渦巻きのイメージを入れる」。この4つを決める時の話し合いが、一番長かった気がします。全時代共通で出せるアイテムがなかなか決まらなかったんですよね。

伊坂 〈原始〉の大森兄弟さんが、「この時代は割れそうなものがないんですよね」と言って、「え、そうなの! コップくらいあるでしょ?」みたいな(笑)。大森さんは本当に大変だったと思います。原始時代だから、小説の中で固有名詞が使えないし。

朝井 その話し合いで一番スペシャルな発言をしたのも大森兄弟さんの、お兄さんのほうで。私は一生忘れないと思いますが、「『対立』についての対話」が始まる共通のきっかけを決めようという話題で、「鮭の産卵、じゃないほうがいいですよね?」と。

伊坂 自分のパート的にはそれがしっくりきたんですかね(笑)。

朝井 9つの時代共通で鮭の産卵シーンが出てきたら、インパクトは絶大だったかもしれないですよね。当然、別のきっかけにはなりましたけど、中盤で「人はなぜ争うのか?」ってことをそれぞれ触れておいたのは、読み比べてみたくなるっていう意味でも、すごく良かったなと思います。緊張感があります。

伊坂 僕と朝井さんの作品は時代が近いこともあって、似たような雰囲気をまとっていると思うんですよね。登場人物が入院しているところとか、なんだか繋がって見えるよね、みたいな。あれ、僕がパクったんですけど(笑)。

朝井 超嬉しかったです! どちらが先でもいいので、ぜひ皆様には味わっていただきたい。

伊坂 みなさんの連載を読んでいて、本当に毎回面白かったんですよ。たとえ僕の作品が気に入らなかったとしても、他の方の作品にどんどん手を伸ばしていってほしいですね。

朝井 私は今、「他人の本が出るのが楽しみ」っていう感覚を人生で初めて味わっているんです。自分の人生でそんなことが起きるんだってことが驚きだし、ラッキーって思っています。すべては、伊坂パイセンがこの企画を立ててくださったおかげです。

伊坂 僕が立ち上げたわけじゃないんですって!(笑)。

取材・文=吉田大助 写真=江森康之

 

次ページ>2013年から始まった壮大な文芸競作企画 螺旋プロジェクトとは?