「欲望に流される方が人生は楽しい」恐怖と官能の作家・花房観音インタビュー | 夏のホラー部第6回

ホラー

2015/9/12

幸福の絶頂で死ねたら最高だと思う

――本格的な怪談小説としては『恋地獄』(KADOKAWA)がありますね。幽霊の見える女と見えない女、2人の視点から性愛と恋愛の地獄を描いた衝撃作でした。

花房:これはわたしが書いた唯一の恋愛小説でもあるんです。最近、男も女もモテたいというじゃないですか。あれは不特定多数にちやほやされたいという承認欲求であって、恋愛とは対極にあるものだと思う。わたしが思う恋愛、性愛っていうのは男と女が一対一で向き合うぎりぎりの関係です。

――しかもそれが死に向かってゆく、というのが花房作品ですね。

花房:やっぱり幸せな時間って持続しないじゃないですか。幸せは瞬間の中にしか存在しないと思うんですよ。結婚しておいてこんなことを言うのもなんですが、幸せの絶頂で死ぬことが、恋愛の最高の形なんだと思う。阿部定のような最期って惹かれますよね。実行しようとすると命が幾つあっても足りないから、それを小説で書いているんです。

――背徳的なユートピアですねえ。

花房:ふと気づいたんですけど、わたしの小説には必ず「地獄」という言葉が出てくるんですよ。極楽に行くには地獄をのたうちまわる必要がある。仏様が救済してくれるのは、地獄で苦しんでいる人たちなんです。

――そう観音さまに言われるとすごい説得力が。

花房:ですよね。なんにも考えずにつけたペンネームですけどね(笑)。期せずしてうまくつながったんですよ。


破滅する快感を味わわせてやろうと…

――『鳥辺野心中』(光文社)教え子に翻弄される中学教師の話でこれまた恐ろしい。男性読者は震えてますよ。

花房:怖くするつもりはなかったんですが、帯に「こわい!」って書かれちゃいました。京都の三年坂を舞台にした時点で、怖くなるのは決まっていたかもしれないですね。主人公の男性教師には、実はモデルになる知人がいるんです。いい家のぼんぼんで、自分はいつも正しいという顔をしている。こういう常識でこり固まった男に、破滅する快楽を味わわせてやろう、と思って。

――もっと破滅してみせろ!と。

花房:自分でもどうしようもない感情に動かされる方が、生きていて楽しいじゃないですか。わたしは性のことで大失敗をして、他人から見たらバカかもしれませんが、今だから言えるんですが、すごく面白い人生なんですよ。欲望に流される方が、人間らしいとも思います。大きな声では言えないですが、わたしのまわりの夫婦を見ても、「どっちか浮気しないかな」と期待してるんですよ。誰もしないんですけど(笑)。

――欲のままに生きる、団鬼六ワールドですね。

花房:そうなんです。業の肯定、欲の肯定、わたしの世界はそれに尽きますね。現実的にはモラリストだし小心者だから、一線を越えることができないんですが、そのせいで背徳感や憧れを描けるんだとも思います。


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