性と生を赤裸々かつ繊細に綴るWeb作家が満を持しての書籍デビュー『全部を賭けない恋がはじまれば』稲田万里インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』12月号からの転載になります。
「正月がはじまって、終わった。」「股間にドラマがある日々だ。私の話だ」「10月末日にやることなんて決まっている。セックスだ」 どの収録作品も、最初の一行でまず、こちらの鼻づらを取って引きまわす。語り手である「私」が体験する、多くの出会いと別れ。性と生に彩られた事件の数々。これは実体験を赤裸々に描いた私小説なのか、それとも私小説の態をとった虚構なのか? いずれにせよ著者の稲田さんは自らについて、このように語る。「ものすごい事件が起こりまくる人生を歩んできました」と。
(取材・文=皆川ちか 写真=冨永智子)
「20歳で上京してデザインの専門学校に入り、デザイナーの佐藤亜沙美さん─私は師匠と呼んでいるのですが─の事務所に押しかけ的に弟子入りしました。スイカと一升瓶を持参して」 そんな“物語の主人公”のようなインパクトのある手土産を携えた稲田さん。その後は師匠にかわいがってもらいながら、多彩な人びとが出入りする職場での仕事を楽しんでいたものの体調を崩してしまい退職することに。その際、佐藤…