今、何食べたい? ソロめし歴14年のジャズミュージシャン・大江千里の自由でおいしいスローライフエッセイ

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公開日:2023/1/6

ブルックリンでソロめし!
ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(大江千里/KADOKAWA)

 料理をするとき、ああしなければこうしなければと縛られてしまうと、一気に「作らされてる感」が出て疲れてしまう。実は筆者のまわりでも、「料理が嫌い」「面倒くさい」と言う人ほど、そうした常識に支配された料理を思い描いていることが多い。

 でも、今あるレシピは「誰かが作っておいしかった料理」を再現できるよう分かりやすくしたものでしかない。それを必ずなぞる必要なんてないし、料理はもっと自由なもののはず。『ブルックリンでソロめし! 美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(大江千里/KADOKAWA)は、そうした自由な「ソロめし」を満喫する様子を描いた料理エッセイ。

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 著者の大江千里さんは、ニューヨーク在住のジャズミュージシャン。2008年に渡米し、その後も7枚のアルバムを発表している。本書は、そんなソロめし歴14年となる大江さんの、noteで連載中の「大江屋レシピ」選りすぐりの46皿、そして書き下ろしのエッセイを収録した自身初の料理エッセイだ。

 冒頭では、「コロナによるロックダウンを経て、キッチンに立つ機会が多くなった」と綴っている大江さん。大江さんはコロナの感染が拡大する中で、「これが最後(の食事)かもしれない!」と家にある食材を活用し、「最後の晩餐」を作り続けてきた。冷蔵庫に限られた食材しかなくても、発見したもので心のままに、心を込めて食べたいものを素直に作るのが大江さんスタイルだ。

ブルックリンでソロめし!

 例えば、コロナが明けたニューヨークの街に最も生き残っていたという「ピザ」。密室を避けるため、ニューヨークでは「アウトドアダイニング」が推奨され、そのスタイルを取り入れたピザ屋が新たな社交場となったらしい。「コロナ禍で心を壊さずにいられたのは、ピザを食べる見知らぬ人の笑顔が街中に溢れていたから」だと書かれている。

 そして、それなら「(家で)作っちゃおうか!?」となるのが大江さん。

ブルックリンでソロめし!

 初めて作ったピザはトマトピューレの水分がやや多く、ピザ生地も少し硬かったそう。でも、そうした失敗も含めて経験で、自由な料理の醍醐味。筆者も料理が大好きでよくレシピ開拓をするが、失敗しても楽しいし、勘を頼りに成功にたどり着いた時の満足感はクセになる。

 ほかにも、大好きな粉もんを粉なしであっさりと、キャベツと卵だけで作った「関西人も真っ青な名作 粉ないもん」、応用が100万通り利く自由な西洋風フルーツポンチ「マチェドニア」で「マチェド松竹梅ぴ」(“ぴ”は愛犬ぴーす用)」、納豆で作ったこってりすぎないカルボナーラ「ナットボナーラ」など、分量ざっくりで常識に囚われない料理を次々と生み出していく。

ブルックリンでソロめし!

 ちなみに大江さんは愛犬家で、「大江屋のタンパク質のルーティンはぴーすのごはんが中心」「僕はぴーすのエネルギー源のおこぼれ人生なのです。それが僕のハッピー」と豪語するほど。本書内でも、愛犬ぴーすとの時間を切り取った写真があちこちに登場する。

ブルックリンでソロめし!

 ほかにも、お弁当に関するほろ苦エピソードや、海外生活をともに生き抜いてきた食器たち、ガスが止まった極寒の日々など、大江さんを構成している思い出の数々があちこちで紹介されている。

 生きている以上、「食」というのはどんな環境下でも欠かせない、生活の基盤となる部分だ。本書を読んでいると、これを楽しめるか否かは、人生を楽しめるかどうかに大きく関わってくるのだと改めて感じる。計算しつくされた料理もそれはそれで美しいしおいしいものだが、自分スタイルの自由なごはんは、まるで冒険しているようなワクワク感を与えてくれるのだ。

 何となく日々にメリハリやワクワクが感じられない、料理をするのが億劫、という人は、本書を読んで常識というしがらみから解き放たれてみるのもアリかもしれない。

文=月乃雫

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