『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』だけじゃない! 冨樫義博の魅力を味わえる未曽有の宇宙人SF

マンガ

更新日:2023/1/12

 Twitterアカウント開設や、『HUNTER×HUNTER』の3年11カ月ぶりの連載再開と新刊、そして展覧会『冨樫義博展 -PUZZLE-』開催と、話題続きの冨樫義博氏。そんな彼が1995~1997年にジャンプに連載した名作が、地球で無邪気にふざける宇宙人を描いた『レベルE』(集英社)だ。

 数百種類の異星人が生活する地球にやってきたドグラ星の王子たちと、異星人の存在を知らない地球人が繰り広げる、オムニバス形式の物語。高校進学を機に山形に単身移住し、甲子園を夢見る高校生の筒井雪隆は、引っ越し当日に部屋でくつろぐ自称・宇宙人に出会う。不時着のショックで記憶を失ったと語る彼は、戦闘民族ディスクン星人とトラブルを起こすなどして周りを振り回す。彼を自らの星の王子と呼び、身柄を確保しようと追ってきた護衛軍隊員たちも巻き込んだ騒動の行く末は――。

『レベルE』で描かれるのは主に、その後も王子とつかず離れずの雪隆の周りで起こる出来事と、地球保護を担うことになった王子の暇つぶしで「原色戦隊カラーレンジャー」の任務を与えられた小学生5人の奮闘だ。王子は全宇宙規模の会議で強い発言力を持つほどの天才だが、人が苦悩する姿が大好きという極悪な性格の持ち主。人をビックリさせたい一心で大事なことを忘れるなど、どこか憎めない王子と、想像を絶する宇宙の常識に読み手は騙され続けるが、いつの間にか、未経験の沼に心地良く浸かっていることに気づくのだ。

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 小学生5人のエピソードは戦隊ものがモチーフであるものの、『レベルE』の世界では冨樫氏が描いてきたようなバトル要素はほぼ皆無。そのぶん、生物のひとつにすぎない人間に対する著者のシニカルな視点が際立っていて、宇宙人を通して人間の業を描く筆致の鋭さに震えを禁じ得ない。

 物語では、少年誌らしからぬ、大人の読み手を唸らせるテーマについても触れている。男女の性別を分ける染色体や、架空の異星人の生殖システム、人の念力が起こすと言われるポルターガイスト現象などが鮮やかに描かれていて、著者が純粋に心惹かれるテーマであったのだろうと感じられる。そういう意味では、『幽☆遊☆白書』と『HUNTER×HUNTER』という巨大な2作品の間に月1で連載されたSFマンガ『レベルE』は――とはいえこちらもアニメ化された人気作なのだが――著者が力を抜いて、描きたいものを突き詰められた作品だったのかもしれない。

『レベルE』は、ジャンプコミックスで全3巻というコンパクトな作品。愛すべき王子のキャラクターや、異星人と地球人の不思議なつながり、ドライな会話がリアルな小学生たちの実は熱い友情もしっかり描かれているが、ひとつひとつのストーリーはシンプルで研ぎ澄まされている。多くを語りすぎず、余白で楽しませる見事な構成も、冨樫作品の魅力だろう。テンポの良いオムニバスで、表紙や物語設定から感じる印象よりもキャッチーな読み心地なので、未読の方はぜひこの世界を楽しんでほしい。

文=川辺美希

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