子どものころ、夢見た自分と違っても……過去の私に伝えたい「大人になってくれてありがとう」

マンガ

公開日:2023/3/4

夜の大人、朝の子ども
夜の大人、朝の子ども』(今日マチ子/幻冬舎)

 子どもの感じる時間は、実際に流れる時間よりもずっと長い。いつまでも続くかのように思えて、子どものころは10年後、20年後の自分を想像して「はやく大人になりたい」と願ってしまう。

 実際に20年の時を経て子ども時代を振り返ってみると、夢見ていた自分にはなれていないと感じる人がほとんどだろう。社会生活の中で傷つくことや悔やむことは数多くあり、大人でいることをやめたい日もある。

夜の大人、朝の子ども』の主人公・ゆいもそんな大人のひとりだ。離婚して子どもと離れて暮らしているゆいは派遣社員で経済的な余裕もない。カナダで家庭生活も仕事も充実している妹のさえを見て「同じ家庭で育ったのにいつからこんなに違ってしまったんだろう」と悩み、幼なじみのかなと再会したときは彼女の境遇を想像して嫉妬してしまう。

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 しかし、ゆいは思い出す。子どものころの自分が大切にしていたものは何なのか。どんな体験をして、何を感じてどういった行動をしたのか。心の奥底にあった記憶は時にゆいを傷つけるが、大人であることに疲れ切った彼女を癒すこともある。

 そして周囲を見回すと、幸せなんだなと妬んでいただれかの傷を知ることもある。

 小学生時代、ゆいとよくあやとりをしていたかなのエピソードはその中でも代表的なのではないかと感じられる。

 子どものころ、海辺の大きな家に引っ越して転校したかなとビジネス街で再会したとき、「正社員なんだろうか」「お給料高いのかなあ」とゆいは苦しくなるのだが、転校したあと自分の夢も叶えたかなは、悲しい経験をし、今の自分を責めていた。

 話を聞いたゆいは、子ども時代、ゆいとかながしていたあやとりの糸が現在につながっていることに気づく。

 それは「はやく大人になりたい」子ども時代の自分と、「子どもに戻りたい」大人の自分が向き合う瞬間のひとつでもあった。

 ゆいが子ども時代の自分に救われても、シンデレラストーリーのように突如として現在のゆいの状況が好転することはない。しかし子ども時代のゆいが差し出したバトンを今のゆいが受け取り、未来のゆいへ向かっていくことはできる。

いつだってもう一度走り出せる

 長い人生、ころんだとしてもまた立ち上がればいいのだ。

 つらいことのあった人、勇気がほしい人……今の自分に自信が持てないすべての大人に、この本を贈りたい。

文=若林理央

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