“目立たないグループのコ”が芝居をするのは「カン違い」なの? “ふつう”から外れる難しさと素晴らしさを林真理子が描く『私のスポットライト』

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/15

私のスポットライト
私のスポットライト』(林真理子/ポプラ社)

 春になり、真新しい制服やスーツに身を包んだ若者を見ると、微笑ましい気分になる。大人になった今でこそ、青春時代は輝かしいものに思えるが、自分がその年代だったころ、そんなふうには思えなかった。周囲の子がやっていることを、“ふつうに”やらなければ不安になる。同時に、「自分は何者にもなれないのか」という意識とも、そろそろ向き合わなければならない時期だ。『私のスポットライト』(林真理子/ポプラ社)は、そういった思春期の心の揺れを、みずみずしく思い出せる物語である。

 顔も性格も、おまけに成績も地味な中学1年生、平田彩希のクラスにイジメはない。いや、ないことになっている。顔も成績もそこそこいい“一軍”のコたちの発言力が極めて大きいというだけで、彩希たち目立たないグループのコは、本ばかり読んで「クラい」と無視されるコみたいにも、みんなを笑わせようとしてたいていはずしているコみたいにもならないように、息を潜めて過ごしている。

 そんなある日、彩希たちのクラスは、一軍のコたちの計画どおり、学園祭でクラス劇をやることになった。しかし、その決定直後に一軍グループの派閥争いが勃発、そのとばっちりを受けて、「音読がうまい」と指名された彩希が主役を演じることになる。彩希と同じグループのコは「適当にやればいいじゃん」と言うけれど、劇の主役は、一番目立つすごい立場だ。適当にはやりたくない。自宅で練習をはじめると、彩希の父が学生演劇をやっていたことが発覚した。彩希は、父のアドバイスを受けながら練習を重ね、クラス劇を大成功へと導く。演劇のおもしろさに目覚めた彩希は、芝居の勉強をしたくて児童劇団に入団するが、その噂がクラスに広まると、「カン違いしてる」と言われるようになり……。

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「やっぱりふつうのコが、何かしちゃいけなかったんだ」。彩希は芝居を諦めようとするけれど、劇団の先生は、「ふつうの子になるのはつまらない」と励ましてくれる。愛らしい顔立ちのいとこ・美冬も、テレビドラマへの出演が決まったという。いじめられないために“ふつうのコ”に戻るのか、自分の「好き」を追いかけて、“ふつうじゃないコ”を目指すのか。揺れる心を抱えつつ、テレビで美冬のわざとらしい演技を見る彩希に、父が「負けるんじゃないぞ」と声をかける。「世の中、頑張るコと運のいいコがいる。運のいいコの方が最初は前に出ていくけど、残るのは頑張るコの方だ」。

 青春時代、“ふつう”から外れるのは難しいことだった。「がんばっている」ということでさえ、大っぴらには言いにくい空気があった。が、大人になっても、“ふつうじゃない”道が歩きにくいことに変わりはない。別の道を選んでいれば、楽に生きられただろうかと思うこともある。夢を見続けることでさえ、年々難しくなっていく。“ふつうじゃない”道を選ばなかった彩希の父の心も、大人の読者にはしみじみと感じられるだろう。そう、芸能界などの華やかな仕事だけが、“ふつうじゃない”生き方ではないのだ。わたしたちはみな、どんな世代でも、自分だけが輝ける場所を目指している。本作は、「自分だけのスポットライト」を見つけた、見つけようとしているすべての人へ、林真理子氏がおくるエールである。

文=三田ゆき

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