AIがコントロールする、150年後の労働のない都市を描いた『AIの遺電子 Blue Age』

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公開日:2023/7/7

AIの遺電子 Blue Age
AIの遺電子 Blue Age』(山田胡瓜/秋田書店)

 人間の脳と同じレベルのAIが誕生する臨界点「シンギュラリティ」。AIやデジタル技術が数学の世界で動いているうちは起きるはずがないと、半年前までそう思ってきた。でも、既にAIは数学とは別の次元で動いているのかもしれない。

「生成AI」と呼ばれるAIは、画像や音声、テキストなど、手軽に0→1のコンテンツを生成できてしまう。2022年にChatGPTが登場するや否や、ヒトのレベルを軽々と超えてしまい、業務効率化やアイデアだしのツールとして注目されるようになった。

『AIの遺電子』という作品が、2023年夏にアニメ化することになったのは、巷を賑わし、新しい話題に事欠かない生成AIのニュースに影響を受けたからだろう。それにこの作品が、現実世界で人類が直面している問題にピッタリはまっている証明でもあると思う。

 本記事では、「AIの遺電子」シリーズの現在の連載作品、『AIの遺電子 Blue Age』(山田胡瓜/秋田書店)から、現実世界とも繋がっているかもしれない未来予想に思いを馳せたいと思う。

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人類は争いや飢餓から解放されたが?

『AIの遺電子 Blue Age』の世界では、AIは社会のインフラとなり、人格を持ったAIを搭載した「ヒューマノイド」が人口の1割を占めている。ヒューマノイドは人間とほぼ等しい「人権」を持ち、人類は差別も偏見も戦争もない、恒久の平和を手に入れた。主人公の須堂光(すどうひかる)はシリーズの中で一番若く、研修医として大きな総合病院で働いている。

 現実世界でもAIが進化した先に「平和」は訪れるのだろうか。答えのない疑問だが、私は昨今のニュースを見る限りは「平和に向かっている」と考えている。今の世界は複雑で、国連であっても戦争を回避することはできない。しかし、近年台頭してきたAIの脅威に立ち向かうため、AI兵器による最悪な事態を避けるため、世界は強制的に最適化しようと足並みを揃えはじめたような気がするのだ。

 最早、現状のシステムだけで世界中の合意形成を図ることは難しい。だが、AIの底知れぬ脅威を目の当たりにした人類は、無理くりAI規制やリスクに対する議論を進めはじめた。そう、AIの出現によって世界が一つになっていくような気がしているのだ。AIは新しい世界秩序のトリガーではないか。そしてそれは、『AIの遺電子 Blue Age』が描いた世界とどこか近く、何かが大きく異なっている。

AIでコントロールされたヒトの行く末

『AIの遺電子 Blue Age』の世界では、ナイルという米国の巨大テック企業が、様々なサービスを国を超えて提供している。まるでGAFAMのように。第4巻から、須堂はナイルが作った「新世界」という労働のない夢の都市で出向医師として働いている。全てAIにコントロールされた新世界では、危険な思想に陥らないように常にAIに監視され、「思わずやっちゃった」「思い切って○○してみよう!」なんて気が起こらないように日々の出来事が、可もなく不可もなしのぬるーい感じに調整されている。

 言動一つとっても選択肢が与えられ、品行方正な行いができるようにAIが提案してくれる。AIに従っていれば人間関係に悩むことなく、誰かに嫌われることもない。そうやってココロの安定が約束されている。

 一見、失敗や後悔のない夢のような世界にも思えるが、新世界の住人からは心霊写真をみせられているような違和感が溢れている。そこにあるはずのモノがない、そこにないはずのモノがある。そんな感じだ。

 労働や自己決定というのはヒトが社会の中で生きていく上で欠かせないパーツだったと新世界の住人は教えてくれる。現代社会においても、労働を確保するためにヘンテコなルールが沢山あるが、新世界でもヘンテコな仕事でヒトから時間を吸い上げ、暇すぎるヒトが暴走して秩序を乱さないように、AIがコントロールしている。この構図は近い未来、現実世界でお目見えしそうな気がしてならない。

そう、物語のどこかは未来に繋がっている

『AIの遺電子 Blue Age』の世界は、現代社会からすると夢のようだが、作中の彼らが悩み、直面している問題の一部は既に現代社会でも起きはじめている。作中で起きている出来事の解像度が高すぎて、「あぁ、こういうことに悩むことになるんだろうな」とすんなり受け入れてしまいそうになる。

 世界は少しずつよくなっている。しかし、この作品のような未来を迎えられるかどうかは現実世界でAIとの関わり方についてどう合意形成していくかにかかっている。AIがターミネーターのような殺人兵器となり、人類そのものを脅かす脅威となる可能性だってある。AIとは共存の道を選ぶしか選択肢はないだろう。この物語の手前を生きている私たちは、ヒトがヒトであり続けるために世界を一つにして取り組むという大仕事を経験するかもしれない。

 AIは世界を変える。そしてAIと共存する人こそが、世界を変えるキーなのは間違いない。この時代に生きていたことを未来の自分はどう振り返るのか? あなたも、ちょっと先の未来をこの作品と共に想像してみてほしい!

文=ネゴト / そふえ

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