出てくるのは全て実在の料理! 世界の危険地帯で食す、怪しくも魅惑的なグルメレポートコミック『鍋に弾丸を受けながら』

マンガ

公開日:2023/7/4

鍋に弾丸を受けながら
鍋に弾丸を受けながら』(青木潤太朗:原作、森山慎:作画/KADOKAWA)

 旅先などでたまに衝撃的においしい食べ物に出会うことがある。そしてそれは必ずしも高級な店というわけではない。むしろ、なんとなく入った店やちょっとした買い食いの中に潜んでいることは結構多い気がする。私は日本から出たことがないため、それらは全て国内での経験に基づくものだが、世界にはもっといろんな意味で強烈なインパクトを与えてくれる食べ物があるんだろうな、食べてみたいなと、たまに想像することがある。

鍋に弾丸を受けながら』(青木潤太朗:原作、森山慎:作画/KADOKAWA)は、そんななかなか行くことができない、世界の、しかも危険地帯へ赴いて、現地の美食を紹介しているコミック。なお、主人公のジュンタロー(男性)をはじめ、登場する人物は全て美少女で描かれているというのが面白い。これは、二次元コンテンツの過剰摂取によって自分を含めて目に映る人間が全て美少女に見えてしまうという原作者・青木潤太朗氏の特性(?)からだ。ちなみに青木氏は釣りが趣味で、釣りのために世界各地を旅しているという。

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 作中に登場するジュンタローの友人Kが、危険地帯の食べ物は「20点か5万点」と言うだけあり、料理はどれもとんでもなく興味をそそられるものばかり。第1話に登場する「マフィアの拷問焼き」こと「ロモアールトラボ」から、なぜ今この場にないのかと悔しくなってしまうほどの一品だ。これは、服を着たまま焚き火の中に自分から身を投げさせるというメキシカンマフィアの伝統的な処刑方法に由来するもの。オーガニックコットンで包んだ牛肉を焚き火に放り込むという調理方法がその様子を想起させることから、そう呼ばれているという。

 由来を聞くとゾッとしてしまうが、このマフィアの拷問焼き、完璧な火入れで赤身が柔らかくなり、まるで「ステーキの赤いとこ」だけを食べているような感覚だという。「味が濃強い! 香ばしくて熱い!」と、ジュンタローも夢中になって食べていて、読むとよだれがあふれること請け合いである。

 また、第3話では、現地でしか味わえない極上フルーツも紹介されている。ブラジルのアマゾナスで「アバカシ」と呼ばれているそれは、いわゆるパイナップルだ。だが日本人がイメージするパイナップルとはまったく違う。ジュースは鮮烈な甘さの中に乳飲料のようなまろやかさがあり、キンモクセイのような香りがするらしい。ただ輸入の都合上、腐る一歩手前まで完熟させたその味わいは、日本ではまず味わうことができない。

 また、ジュンタローの友人・ロドリゴが「日本人は魚の美味しい食べ方に詳しい 同じようにアマゾナスは果実の食べ方に詳しいのです」と作ってくれたオレンジジュースも、次元を超えた「分析のできない味」をしているという。一口飲んだ瞬間、自分がビタミン欠乏症を起こしているんじゃないかと疑うほどにおいしく、まるで「すごくよくできたカクテルみたいな味」と紹介されている。しかもそのオレンジは、不思議なことに普通に食べるとパサパサしているらしい。

 こうしてジュンタローは、世界を旅しては現地の人々と交流し、様々な美食体験を重ねていく。第2巻に登場するドバイで出会った「謎の体に良い何かが入ったハチミツ」、シャボンソウを使って砂糖を繊維状にし、それをベースにして作った中東のお菓子「ハルヴァ」など、多くの日本人からすると想像もつかないような食べ物が多数登場する。さらに第3巻では、「20点か5万点」の20点だった料理の話や、青木氏が漫画原作者になる前の話などが掲載されているので必見だ。

 調理法や食材そのもののクオリティの高さももちろんあるが、やはりその土地でその場で食べるということが唯一無二の体験となる。実際に足を運ぶことがどれだけ大きな価値があるのかを本作を読んで改めて感じさせられた。作中のような危険地帯はハードルが高すぎるので、まずは日本各地を巡ってもっと現地ならではのグルメをこれからしっかり味わっていきたいと思う。

文=月乃雫

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