「離婚は結婚の100倍疲れる」14組の離婚の形。夫婦をこわしたものの正体とは?【書評】

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更新日:2023/7/21

こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚
こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』(稲田豊史/清談社Publico)

「離婚するのは結婚の100倍疲れる」――。離婚経験者から、そんな言葉を聞いたことがある。結婚も離婚も“新たな門出”だが、結婚に比べればネガティブな要素も多く、離婚する前からさまざまな苦労があると思えば、100倍疲れるのは本当なのだろう。先日発売された『こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』(稲田豊史/清談社Publico)を読むと、冒頭のぼやきが独身の筆者にも、より実感のある言葉として思い出された。

 同書は、著者の稲田豊史氏が『女子SPA!』というWEBサイトで連載しているルポ「ぼくたちの離婚」の内容に、大幅な加筆・修正をして刊行された一冊。この連載は、離婚経験者の稲田氏が、バツイチの男性に離婚に至るまでの経緯や顛末を聞くという、人気シリーズだ。連載のテーマが「男性側から見た離婚」のため、男性のエピソードが中心だが、同書には女性の体験談も掲載されているので、男女双方の視点で離婚が語られている。本稿では、この『こわされた夫婦』に収録されている2つのエピソードを取り上げる。

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■妻の不機嫌に怯えた8年

 とある精神疾患を抱えた女性・志津さんとの“結婚と離婚”を経験した仲本さんは、彼女との交際中、こんなことを思ったという。

「僕は特殊な人に選ばれた、特殊ですごい人間なんだと高揚しました。不謹慎だし、愚かにもほどがありますが、当時は本気でそう思っていたんです。(中略)志津を守ってやらなければならない。その使命感に燃えていました」

 そんな使命感も、彼女との過酷な同棲・結婚生活のなかでしぼんでいく。志津さんは朝から晩までイライラを募らせ、気に入らないことがあれば癇癪を起こして仲本さんを罵倒する。過度な束縛もあり、一人で外出をすることはおろか、勝手にテレビを見るのも許されない。

 彼女の機嫌をうかがう日々に加え、仕事でもトラブルが発生し、心身の限界に達した彼は、近所の心療内科を受診。医師にすべてを話すと「明らかに異常だと思います。よくここまで頑張りましたね」と労られ、涙があふれてきた。仲本さんは離婚を決意するが、「慰謝料500万払え」「あなたの大切なものは全部奪う」「あなただけが幸せになるのは絶対に許せない」など、怒りに任せた志津さんの恨み節に耐え、詐病を使い、なんとか離婚までこぎつけた。

 仲本さん夫婦のように、ふたりだけの世界に籠もっていると、その異常性に気づけず、限界まで誰にも助けを求められない状態に陥るリスクがあるようだ。

■大事なことを話さずに結婚をした女性

 10歳年上の夫・昭二さんと藤堂由美さんの結婚生活は、3年で幕を閉じた。なんでも、由美さんは入籍直後から結婚に対して「思っていたのと違う」と感じていたそうだ。昭二さんから「お盆休みに自分の実家に帰省しよう」と提案されたときには「帰省する意味がまったくわからなかった」と述懐する。

「(お盆は)せっかくの休みなんだから、家でゆっくりしていたい。そう言うと、結婚したら、普通は夫の実家に帰省するものだよと。え? それ、先に言ってよって(中略)付き合っている頃、彼は両親ではなく親戚に育てられたと言っていました。だから両親はてっきり亡くなっているものだと思い込んでいたんです。ところが結婚してみると、彼のお母さんからブドウが届きました。え? 生きてたんだって」

 彼女の違和感以上に、筆者は由美さんの発言に対して「両親の生死も知らずに結婚……?」という疑問を抱かずにはいられなかった。実際に彼女に会ってインタビューをした稲田氏の混乱も文章に綴られている。

 その後も由美さんは、自分が夫公認の不倫をしていた事実や、昭二さんがキレやすくモラハラ気質だったことなど、多くの人がドラマチックに語りがちな内容も、淡々と暴露していく。そんな由美さんの結婚生活は、昭二さんがある事件を起こして幕を閉じた。彼は、自分の不倫相手の女性を脅迫した罪で逮捕されてしまったのだ。

 W不倫に加えて夫が逮捕される、というかなりの泥沼展開だが、それすらも平然と話す彼女に、どこかミステリアスな魅力を感じるエピソードだった。

 同書にはほかにも、不妊治療をはじめてから関係が悪化して離婚に至った夫婦や、妻のヒステリーに怯えながら過ごしていたが、ある瞬間に“気づき”を得て離婚に踏み切った男性など、十人十色の離婚模様が綴られている。

 また、離婚と聞くと夫婦ふたりだけの問題と捉えられがちだが、それぞれが育ってきた環境や、親との関係、過去の恋愛が結婚生活に影を落とすケースもあり、読後には夫婦・家族を維持する難しさを感じざるを得ない。

 14組の夫婦は、一体何に“こわされた”のか、ぜひその目でたしかめてほしい。

文=フクロウ太郎