のど自慢大会を開催するクジラ。優勝した曲は6000キロ以上離れた海でも流行!? クジラやイルカなどの表情豊かで鮮やかな写真集

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公開日:2023/9/11

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人
ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人』(ブライアン・スケリー :著、田島 木綿子:監修/日経ナショナル ジオグラフィック)

「クジラはあまりに巨大だ」これは誰もが知る事実だと思う。「クジラは賢くて社会性がある」これくらいのことも、それなりの人は耳にしたことがあるかもしれない。あるいは、「クジラが浜辺に座礁すると、体内に溜まったガスで爆発するから近づかないほうがいい」ということも、ニュースか何かで見て知っている人もいるかもしれない。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人』(ブライアン・スケリー :著、田島 木綿子:監修/日経ナショナル ジオグラフィック)は、世界最高峰の水中写真家の呼び声高いブライアン・ケスリーとジェームズ・キャメロンがタッグを組んだ、クジラなどの大型海洋生物に一歩近づくことができる貴重な写真集だ。

 クジラと一口に言っても80を超える種がいるらしく、それぞれが異なる生態や深い文化を有している。実際に見ることは稀なクジラやイルカだが、迫力ある写真集で、大型の海洋哺乳生物と本当に対峙したような感覚を味わってほしい。

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「殺すのにもってこいのクジラ」と名づけられたタイセイヨウセミクジラ

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P32

 クジラ捕りたちが「殺すのにもってこいのクジラ」という意味でつけた英名を持つセミクジラ。「かつては巨大なタイセイヨウセミクジラの黒い背中を歩いて、湾を横断できるほどだった」と言われていたが、捕鯨の対象になり絶滅寸前まで追いやられているという。少なくとも心晴れやかになるような名づけをされなかった彼らだが、ブリーチング(ジャンプ)する子クジラや、母子の絆を感じさせられる壮麗な写真を見ると、彼らの生命力を感じることだろう。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P33

「深海の怪物」として描かれがちなマッコウクジラの実態とは?

 ハーマン・メルビルの『白鯨』は、人間とクジラの悲惨な闘いを描いた物語だが、そのモデルはマッコウクジラである。捕鯨船に衝突するなど、残忍で凶暴で危険なイメージがついてしまっているかもしれないが、その実態は、穏やかそのもの。好奇心旺盛で知能が高いらしい。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P120-121
P120:マッコウクジラの口から、イカの触腕がはみ出している
P121:口を開けて泳ぐ別のマッコウクジラ

 1枚目の写真には、脂肪たっぷりなその大きすぎる体と、眠たげな目が写っている。口から飛び出すイカの触腕には、抵抗する意思をまったく持たない諦めを感じさせる。比較するものがイカの触腕だけで、そのイカがどれくらいの大きさなのか分からないが、巨大さゆえの畏怖を感じる写真だ。彼らは仲間と会話し挨拶するときだけ、お互いに触れ合うらしい。

のど自慢大会を開催するクジラ?

 ザトウクジラは魅力的な歌を通してコミュニケーションをとってきた生物の一種で、人間に最も身近なクジラと言われている。彼らは毎年、太平洋で雄たちがうなり声や遠吠え、叫び声などを組み合わせて歌を披露し合い、優勝曲を決めるらしい。その曲は太平洋全体の他のクジラの集団にも受け継がれ、6000キロ以上離れた海でも流行するという。

 また、集団で餌を確保するためにバブルネットフィーディング(クジラが集団になり、泡を吐いて魚を追い込む採餌手法。円を描くように泡を吐き出して魚の群れを取り囲み、下から大きな声を発し、パニックになった魚を上に追い込む)を使うなど、社会性や知能の高さを知ることができる。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P148
ザトウクジラの群れが海面に顔を突き出す。バブルネットによる採餌のクライマックスだ。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P150-151

ある母親が出産すると、他の雌もたちまち母乳が出る育児体制

 何百もの単語を操りおしゃべりをするというシロイルカ。救難信号や地名の他に、驚くことに仲間の名前まで表現できるという。ある母親が出産すると、他の雌も母乳が出るようになって子育てを手伝うという社会性のある一面や、前頭部にある「メロン」と呼ばれる特殊な部位を使って超音波を働かせ周囲の情報を把握する習性がある。

ナショナル ジオグラフィック クジラ 海の巨人 P60-61
カメラを興味深げにのぞき込むシロイルカたち

 何頭ものシロイルカを捉えたこの写真は圧巻だ。実際の海でこんな場面に出くわして、冷静でいられるだろうか? ダイナミックな動きと、異物を目の前にした恐怖とをおさめた震えるような一枚だ。

海の生物たちの見たことのない表情の数々

 写真とともに彼らの生態について紹介してきたが、正直深い海の巨大な住人たちを語るには、まるで足りない。掲載した写真以外にも、生まれたばかりで灰色をしたシロイルカの赤ちゃん、亡くなった子を運ぶシャチの母親、すべてを見透かすような深く静かな目をした幼いマッコウクジラ、幸せそうに笑い合うような顔つきのイルカ2頭が頭を寄せ合いながらダンスしている写真など、見どころばかりだ。見たことのない海の巨大な生物たちの表情にも注目だ。本書を機会に、海の世界にどっぷり浸かってみるのはいかがだろう。

文=奥井雄義

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