清野とおるの新境地!新たな目的と視点で、第2のホームタウンとなる街と向き合う『スペアタウン ~つくろう自分だけの予備の街~』

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PR公開日:2023/11/12

スペアタウン ~つくろう自分だけの予備の街~
スペアタウン ~つくろう自分だけの予備の街~』(清野とおる/集英社)

 漫画家・清野とおる先生と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ペイティさん、居酒屋「ちから」、赤澤氏、おこだわり人、怪奇現場……特定の人物から場所まで色々と浮かぶものの、やっぱり総括して第一に浮かぶのは「赤羽」だろう。その理由はやはり清野先生の代表作である「東京都北区赤羽」シリーズ。東京最北端の繁華街「赤羽」がメジャーな街となったのは、本作が一役買ったと言っても過言ではない。そんな清野先生だが、最新作『スペアタウン ~つくろう自分だけの予備の街~』(集英社)では、なんと愛すべき「赤羽」に代わるホームタウン探しに勤しむ。

 え、赤羽愛はどこへ!? と一瞬不安になる最新作だが、これには深い理由がある。最近は土地開発の影響もあり、どうやら清野先生が愛した赤羽の風景が急速に変化しているらしい。この状況下でもしも人災や天災に見舞われたとしたら?……こうして、赤羽愛は変わらず胸に抱きつつ、万が一に備えて自分のホームタウンに代わる街「スペアタウン」を探そうと決意する。街といえば、今までもたくさんの地を訪れては、持ち前の類まれなる探究心と好奇心で、その街の個性や魅力を引き出してきた清野先生。けれども、今作では「スペアタウン」という新たな目的と視点で街と向き合う様子が描かれている。

 かつて清野先生が訪れ“なんか良い”と心のアンテナにじんわりと引っかかった街・多摩センター、熱海、蒲田……。本作は、清野先生がそれらの街を再訪し、果たしてマイ・スペアタウンとなるか? と検証する形式で展開していく。過去作のように不思議な魅力を放つ住民やスナックに突撃することもなく、スーパーで酒と肴を調達してはビジネスホテルで家呑みさながらの晩酌を楽しんだり、サウナに通うなど、本当に暮らしているかのようにその街でゆったりとした時間を過ごす清野先生。そんな本作は、“暮らす目線”で街を歩くという清野先生の新境地。また、作中には従来の作品にはない、どこか心地よいフラットな体温が漂っており、間違いなく清野先生の“現在地”を感じる一作でもある。

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 だが、ユニークなセリフ遣いや、思わず目が嬉しくなるような細かな背景の描き込み。また、自分の地元や馴染みの街が作中に登場しようものなら「でしょ! 良い街なんですよ!」と力を込めて言いたくなるほどの街への圧倒的な解像度、さらには豊橋編で突然始まる「おこだわり人」的空気など、読者とのグルーヴ感を生み出すような演出は健在。つまり、『スペアタウン ~つくろう自分だけの予備の街~』とは、先述の通り“暮らす目線”で街を歩くという清野先生の新境地と、従来の味わいを両方堪能できる贅沢な一冊となっている。

 ちなみに私事だが、筆者は清野とおる作品の大ファンだ。「東京都北区赤羽」シリーズでは、たとえ見慣れた景色だったとしても、自分の半径数メートルの世界にはまだまだ知らない小宇宙が広がっているのかもしれないという小さな光を、そして『ゴハンスキー』ではホッピーをきっちり3杯に割る方法を……語り出したらキリがないが、清野とおる作品から(正直知らなくても生きていけるかもしれないけれど)知っていた方が格っっっっっ段に人生が豊かになる、そんな人生のスパイスをたくさん受け取ったように思う。

 さて、そんな清野先生が新たに教えてくれた“スペアタウン”という概念。今までの作品でお見舞いされてきた劇薬スパイスとは違って、今回は少しマイルドな感じがするが30歳を迎えた今の自分になぜかすごくしっくりとくる。何かとライフステージの変化が訪れる30代、それに伴い急な引っ越しや転勤に見舞われてもスペアタウンがあれば何も恐れることはないはず。備えあれば憂いなし。例に漏れず、今回も実践させていただきます!

文=ちゃんめい

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