『京都寺町三条のホームズ』作者・望月麻衣の新作小説。京都を舞台にエンタメ業界の人々を描く、男女逆転版『マイ・フェア・レディ』!

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/11/14

京都東山邸の小鳥遊先生
京都東山邸の小鳥遊先生』(望月麻衣/ポプラ社)

京都寺町三条のホームズ』や『わが家は祇園の拝み屋さん』など、京都を舞台にしたシリーズが人気の望月麻衣氏。初の文芸単行本作品である『京都東山邸の小鳥遊先生』(ポプラ社)は、作者が得意とする京都の街並みを背景に、エンターテインメント業界に身を置く人々の仕事と恋をとても読みやすく描くヒューマンドラマだ。

 清水寺など京都有数の観光名所が集中する東山区。にぎやかなエリアを抜けた閑静な住宅街を進むと、「東山邸」と呼ばれる大正時代に建てられた瀟洒な洋館があらわれる。脚本家の小鳥遊葉月は祖父母から東山邸を受け継ぎ、13歳年下で大学生の異父妹・美沙とともに暮らしていた。かつては人気脚本家として順風満帆なキャリアを築いていた葉月だったが、ある出来事がきっかけで自分の物語を書けなくなってしまい、今は名前の出ない仕事を受けて細々と生計を立てている。

 ある夜、近所の小料理屋ぎをんで美沙と飲んでいた葉月は、テレビで目にした駆け出しの俳優・鈴木英輔を酷評した。そこにたまたま、お忍びで来店していた英輔本人が居合わせる。英輔はダンスボーカルユニット「BERRY・BERRY」(通称BB)のメインボーカルとしてブレイクしたが、3年前にグループは解散。その後は歌手から俳優に転身するも仕事はうまくいっておらず、その鬱屈を葉月にぶつけてアドバイスを求めてきた。

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 葉月は勢いにまかせ、「私が、あなたのヒギンズ教授になってあげる」と啖呵をきってしまう。ともにかつては人気を博しながらも、今はくすぶっている葉月と英輔。偶然の出会いから、思いがけない共闘関係がスタートするが……。

 オードリー・ヘプバーン演じる下町生まれの花売り娘イライザが、ヒギンズ教授と出会って一人前のレディに変身する『マイ・フェア・レディ』。英輔は偶然出会った謎の女「ヒギンズ」に厳しい言葉をかけられながらも、彼女の的を射たアドバイスを素直に受け入れて自身の魅力を開花させていく。一流のエンターテイナーになろうと努力を続ける英輔と、彼に刺激を受けて脚本家としてのプライドや誇りを取り戻す葉月。立場の異なるふたりが互いに刺激を与えつつ、さまざまなトラブルを乗り越えてエンターテインメント業界で独自のポジションを築いていく。そのひたむきな姿が物語の推進力となり、やがてあたたかな余韻を残すクライマックスへと向かう。

 本作はサブキャラクターも魅力的で、英輔の周りに集う力強いサポーターたちも印象深い。小劇団を主宰する川島や、BB時代からの熱烈なファンのマリアなど、年齢や性別を超えた人たちが英輔の活躍を応援すると同時に、それによって自分が生きるためのエネルギーを受け取っているのだ。

 物語には法観寺の五重塔を展望できるラグジュアリーなザ・ホテル青龍や、旧明倫小学校を改装した京都芸術センター、京都駅の穴場夜景スポットの空中経路など、実在する京都のスポットが登場して観光案内としても楽しめる。文化の薫る古都の風景に見守られながら、エンターテインメント業界で奔走する葉月と英輔の姿は、読む者の胸を熱くするだろう。秋の夜長におすすめの一冊だ。

文=嵯峨景子

■第1章のあらすじをマンガで試し読み!(マンガ制作・小菊えりか) ※本文に漫画は含まれません

京都東山邸の小鳥遊先生

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