【大反響】「さすが瀬尾まいこ」…人生に迷う青年と老人ホームの大人たちの奏でる感動作を、読書家たちはどう読んだ?

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/11/17

その扉をたたく音
その扉をたたく音』(瀬尾まい子/集英社文庫)

 日常を変える音がする。自分を今いる場所から引っ張り出してくれるような音が。そんな音が聞こえてくる本——それが『その扉をたたく音』(集英社文庫)。2019年に『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)で本屋大賞を受賞した瀬尾まい子さんによるこの新たな感動作に、今、多くの読書家たちが大きく癒され、そして、勇気づけられているらしい。

 物語の主人公は、29歳、無職の宮路。実家から毎月ふりこまれる20万円の仕送りで生活する彼は、ギターを片手に音楽の夢を追い続けているが、何をしているかというと、特に何もしていない。デビューの当てがあるわけでもなく、だからといって何か行動を起こすわけでもなく、ただ毎日、怠惰な日々を過ごしていた。だが、ある時、利用者向けの余興に訪れた老人ホーム「そよかぜ荘」が彼の日常を変えていく。宮路はそこで、神がかったサックスの演奏を耳にした。演奏していたのは、介護士の渡部。もう一度その演奏が聴きたいがために、宮路は足しげくその老人ホームに通うことになり、そして、やがて入居者とも親しくなっていく。特に、91歳のちょっぴり毒舌なおばあさん・水木は、昼間から老人ホームに来る宮路が無職であることをすぐに見抜き、彼のことを「ぼんくら」呼ばわりしては、何かと用事を言いつけるようになり……。

 瀬尾まい子の小説は、いつだって温かい。読み終えた時には、傷ついていた心が少し上向くのを感じる。それは本作も同様だ。この物語に、読書家たちは何を感じたのだろうか。

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人と人との交流は、人を変えるだけでなく、生きていく力にもなるんだと思う。温かく優しい作品。

よこやま
現実から目を背けて生きる29歳無職の男が音楽の力を借りて未来への扉を開こうとする。老人ホームでの交流が泣ける。 …誰かに少しでも元気になってもらいたいと自分が必死になること、誰かと一緒に成し遂げようと夢中になること、生きるってそういうことなんだよな〜と思う。

Drivin’ a blue car
働いていてもそうでなくても、健康でもそうでなくても、できることがたくさんあってもなくても、そしていくつになっても、、、生きることを幸せと思える自分でいたいなと思った、この本を読んで。そして音楽ってやっぱりすごい。

パイナップルジャム
予想以上の、心に染み入ってくる物語でした。ぼんくらと呼ばれる29歳で無職の青年が、老人ホームに通ううちに大切なことに気がついていく。人が老いて、ぼけること。そして必ず死ぬこと。わかりやすくも、きちんと心に刺さる文章で描いてあったと思います。瀬尾まいこさん、素晴らしいな。

ちゃとら
91歳の口の悪いお婆さんも実は心優しい人。ぼんくらと呼ばれた宮路も、人に優しい気配りのできる素敵な人。瀬尾まいこ作は、皆んな優しく、ちょっと切なく、新しい世界が開いていく。癒される作品でした。

水色系
疲れたときの瀬尾まいこさんの本、優しい気持ちになれる。イヤな人が一人も出てこない。水木ばあさんの手紙、泣かせるわ。宮路青年は、人を喜ばせるのが好きなことが本当に伝わってくるから、その方面で仕事を探せば天職に巡りあえるんじゃないかなあ。幸あれ。私もがんばろう。

 多くの読書家たちから漏れたのは、「さすがは瀬尾まいこ」の声。甘いだけではない現実を描き出した厳しくも温かいこの作品に、読書家たちは、強く勇気づけられたようだ。

 実はこの物語は、『あと少し、もう少し』(新潮社)のスピンオフでもある。『あと少し、もう少し』で描かれていたのは、介護士・渡部の中学時代のエピソードだ。この作品を読んだことがなくても本作は十二分に楽しめるが、読んだことがある人は、「あのプライドの高い中学生がこんなにも立派に成長したのか」と、感慨深い思いに駆られることだろう。かつて幼かった中学生が成長し、今度は、迷える青年に大きな影響を与えている。人と人は、こうやって強い影響を与え合いながら、生きていくのだろう。瀬尾まいこさんの作品にはそんなささやかな奇跡が溢れている。その奇跡に私たちの心は震えるのだ。

 人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たち。彼らが奏でる物語は、私たちの心にいつまでも響き渡る。読み終えた時に思うのは、「私も頑張らなくちゃ」ということ。新しい一歩を踏み出す確かな勇気を、この本は与えてくれる。多くの読書家たちが絶賛したこの物語は、きっとあなたの心にも静かな感動を与えてくれるに違いない。

文=アサトーミナミ

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