アメリカの黒船に丸腰で乗り込んで死罪になった男。幕末のインフルエンサー・吉田松陰から学ぶ「覚悟の磨き方」

文芸・カルチャー

更新日:2024/2/1

覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰
覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(池田貴将/サンクチュアリ出版)

 江戸時代の終わり、いわゆる「幕末」を生きた武士・思想家・教育者、吉田松陰。自身が歴史の教科書に載るだけにとどまらず、初代内閣総理大臣の伊藤博文など名だたる偉人に教えを授けた、いわばインフルエンサーです。

 1830年から1859年までの、短く濃密な人生のエッセンスを収録した『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(池田貴将/サンクチュアリ出版)は2013年に出版されてから2023年10月時点で43万部を突破するベストセラーになっています。一体何が、現代人の心に刺さるのでしょうか。

 著者は本書の冒頭で「誰よりも熱く、誰よりも冷静」と松陰のパーソナリティを描写しています。1853年、鎖国の末に黒船が来航したときの松陰の行動にそれは如実に表れています。

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彼はすばらしい戦略家だったが、こういうときはろくに計画も立てなかった。「動けば道は開ける!」とばかりに、小舟を盗むと、荒波の中をこぎ出していって、そのまま黒船の甲板に乗り込んだ。
突然の東洋人の訪問に、アメリカ艦隊は驚いた。
無防備な侍が、法を犯し、命がけで「学ばせてくれ」と挑んでくる。その覚悟と好奇心の異常ぶりを恐れたのだ。同時に、日本の底力を思い知った。

 この行動が原因で松陰は幽閉されて、6年後には死罪を言い渡されて人生を終えるのですが、牢獄の中でも本を読みふけり学びを深め、死の2年前からは私塾の松下村塾を主宰し多くの教えを残しました。それも含めて本書では、「心 MIND」「士 LEADERSHIP」「志 VISION」「知 WISDOM」「友 FELLOW」「死 SPIRIT」の6章に分けて、読みやすい長さで松陰の思想が紹介されています。

 生き急ぐパンクロッカーのような行動と、人生の短さ。そしてタイトルにある「覚悟」という言葉のインパクト。そこから連想されやすいのは、ハードボイルドなスタンスかもしれません。しかし、どちらかというと松陰の思想には「柔軟さ」「寛容さ」に関するものが多いのです。

 特に松陰の柔らかさを象徴するのは「四季」という言葉です。人生にはそれぞれのリズムがあって、そのサイクルが早い人もいれば、ゆっくりな人もいる。「誰よりも熱く、誰よりも冷静」な松陰は、時代背景もあって早死してしまいました。

 もちろん、達成できず惜しいことはある。でも、「チャンスがあったのに逃した」ということはなく、全く人生に後悔は無い。自分の「四季」は一巡したので、人生を終えることにする。そのように死に際してあまりに冷静だったので処刑を執行する人が驚いたそうです。

百歳で死ぬ人には百歳なりの四季が、
三〇歳で死ぬ人は三〇歳なりの四季があること。
つまり、
三〇歳が短すぎるというなら、
夏の蝉と比べて、ご神木は寿命が長すぎる
というのと似たようなものじゃないかと思います。

「その人にはその人なりの人生がある」など、現代の多様性議論にも通じるメッセージが150年以上の時を越えてタイムカプセルのように届く。これがきっと、43万部超えのベストセラーの秘訣なのでしょう。1ページをパッと読むこともできるし、1ページについて丸1日あれこれ考えることもできる。年末年始に1年を振り返るのにピッタリな一冊です。

文=神保慶政

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