19歳と46歳の「童貞」が織りなす、青春物語!? 青野春秋の新作も、予想をどんどん裏切る面白さ

マンガ

公開日:2017/10/22

『花束をください』(青野春秋/幻冬舎)

 実写化もされ話題を集めた『俺はまだ本気出してないだけ』(小学館)や『100万円の女たち』(小学館)で知られるマンガ家・青野春秋。シンプルで独特なタッチを巧みに操り、時に人間の本質を鋭く抉るような作風は、一度読んだらやめられなくなるほどの中毒性を持っている。そんな青野さんの最新作である『花束をください』(幻冬舎)が発売された。

 本作の主人公は二人。19歳の棒居模羅流(ぼうい・もらる)と、46歳の西田さとる(にしだ・さとる)だ。二人が出会ったのは、町外れにある深い森の奥。そこで首に縄をかけようとした棒居が、先に首を吊っていた西田を助けたことから物語はスタートする。

 偶然にして最悪の出会い。そんな二人の共通点は「童貞」であるということのみ。どうせ死ぬのなら、人肌を知ってからでも遅くない。そんな西田の提案を受け、棒居はピンサロを訪れるのだが……。

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 読みどころはなんといっても、西田のクズっぷり。二千円しか持っていないくせに棒居の所持金をあてにしてピンサロへと誘い、挙句、禁止されている“本番行為”に及ぼうとしてオーナーに締め上げられる始末。その対比として、棒居はおとなしくまっとうな少年として描かれているため、否が応でも読者は彼に感情移入してしまうだろう。

 しかし、物語のカギを握るのも、この西田。二人の事情を知ったオーナーからピンサロで働くことを提案され、しぶしぶ勤務するようになるのだが、第1巻のラストエピソードでは、なぜか町長選挙に立候補することになってしまう。しかも本人は、目の前にぶら下げられた「地位と名誉」というニンジンに食らいつき、やる気満々。もちろん読者は、棒居と同じように「大丈夫かよ……」と心配になるのだけども。

 歳も境遇も異なる二人の自殺志願者が、「生きた証」を残すために奮闘する物語。……と、字面だけ見るとなんだか素晴らしい物語のようだけれど、そこはやっぱり青野作品。この先も、淡々としていながら胸を抉るような展開が待ち受けているに違いない。また一つ、怪作が生まれたようだ。

文=五十嵐 大