『本当は怖い日本のことわざ』――「白羽の矢が立つ」元々の意味は……

文芸・カルチャー

2017/12/4

『本当は怖い日本のことわざ』(出口汪:監修/宝島社)

 読者諸氏は、日常生活で「ことわざ」を使うことはあるだろうか? 物事をたとえるのに便利なのだが、昔から使われ続けているだけあってその種類は多く、全てを覚えきれるものではない。しかし、いくつか思い出すと「死」や「毒」「殺」など物騒な言葉が使われているものが頭に浮かんできた。小生がいわゆる「中二病」の頃に国語で習い、印象に残っていたからだ。やたらとそんな言葉を使いたがっていた頃が、懐かしくも恥ずかしい……。

 己の恥はともかく『本当は怖い日本のことわざ』(出口汪:監修/宝島社)では、そんな物騒な言葉を用いたことわざをメインに紹介。それらの怖い由来に、用例や類似の語句を解説しつつ、現代においてその言葉がどのような意味を持つかにも踏み込み、ある種の社会批評や分析にもなっている。なお、本書内では一般に四字熟語や故事成語、慣用句といわれる言葉も広義の「ことわざ」として掲載している。その中で、小生が気になった4つを採り上げてみたい。

1:【首くくりの足をひく】
 本書冒頭に挙げられているのがこれである。「首くくり」とは、首を吊っている人を指しており、更にその足を引っ張っているのだから、実に不穏な話だ。その意味は「ピンチに陥っている人に対して、追い討ちをかけるようなひどいことをさらにすること」。本書ではそれを「闇金」にたとえている。なるほど、多重債務に苦しむ人を助けるふりをしつつ、返済しきれないほどの高利で貸し付けて、返済地獄へと足を引っ張る存在は、確かに該当するだろう。弱者に鞭打つ行為は、やはり人として自重すべきことだ。

2:【百人を殺さねば良医になれぬ】
 人の命を助けるはずの医者が人殺しを? と思ってしまうことわざだが、本来の意味はあくまで訓練や試行錯誤の大切さを伝える言葉である。どんな職業でも失敗から学ぶことは多く、訓練だからこそ失敗を重ねつつ学べる。当然、医者も数多くの訓練で学び腕を上げていくが、現場に出てからも学ぶことは多く、時には患者の死と向き合うこともあるだろう。多くの経験は医者を成長させるが、一方で患者の命を左右する職業であるという、戒めの意味も込められているのだ。

3:【薬人を殺さず薬師(くすし)人を殺す】
「薬」と「殺」が共に使われており、なんとも奇妙な感じがすることわざ。人の命を救うための薬も、使い方を誤れば病状を悪化させてしまい、命にも関わってくる。だからこそ薬師──現代では医師や薬剤師なのだが──は、その処方には慎重を期さなければならない。つまり、彼らの怠惰を戒める言葉である。勿論、処方薬を素人判断で使用するのは問題外であり、絶対に行わないように。

4:【白羽の矢が立つ】
 元来は怖い意味だったが、良い意味で使われるようになったことわざだ。今でこそ「野球部の部長候補として白羽の矢が立った」など、多くの人材の中から選抜されたことを示す意味で使われることが多いが、元々は民話で、化物への生贄である「人身御供」を選ぶ儀式に由来する。しかし、それがなぜ特別な栄誉に変わったのか。本書では「みんながやりたがらない、つらくて面倒な役目に選ばれた」と見ることもできるという。一方で、人身御供は神に仕える名誉でもあり、次第に「犠牲」と「名誉」両方の意味で使われ、現代は名誉だけ残ったのではと分析。なるほど、言葉はこうして移り変わるのだなと感じる。

 ことわざに不穏当な言葉が多く用いられるのは、それが人の感性に強く訴えかけるからではないだろうか。「死」など不吉を連想させる言葉は印象に残りやすく、戒めにもなる。なるほど「中二病」がこのテの言葉に惹かれるのは、そういった理由もあるのだろうと自らを振り返って思うのである。

文=犬山しんのすけ