『ねじの回転』は『ダウントン・アビー』!? 柚木麻子の独自視点で織りなされる「世界名作劇場」57選

文芸・カルチャー

2018/2/24

『名作なんか、こわくない』(柚木麻子/PHP研究所)

 誰もが知っている古典的名作というのは、手にとるハードルが高いものだ。なんだか小難しそうだし、“いまさら”という羞恥も強い。だがいまだに読み継がれるということはそれだけ共感し心躍らされる読者が多いあかしだ。とはいえ人には好みというものがあって、あう・あわないは確かに存在する。そこでおすすめなのが柚木麻子さんの推薦エッセイ『名作なんか、こわくない』(PHP研究所)。57冊の名作を紹介しつつ、作中の文章だけでなく柚木さんの経験も引用しながらそのおもしろさについて語っている。

 たとえば三浦綾子『氷点』。何度もドラマ・映画化されただけでなく海外でもリメイクされたいわずとしれた名作だから、観たことや読んだことがなくてもタイトルくらいは知っている人も多いだろう。私も10代のころに母から「これだけは読みなさい」と渡された記憶があるが、装丁の古くささ(ごめんなさい)と親への無意識の抵抗から長らく本棚の肥やしになっている。だが柚木さんの紹介文を読んで生まれて初めて「読んでみよう」と思い立った。その出だしがこちら。

〈つい先日、あまりにも腹が立ち、どんな手を使ってでも相手に謝らせたいと思うことがあった。しかし、いざ顔をあわせたら何故かどうでもよくなってしまい、なあなあのまま元の関係に戻りつつある。〉

『氷点』がどんな話かはともかく、この柚木さんの経験には誰しも思い当たるふしがあるのではないだろうか。その気持ちならわかるけど、それとこの作品にどんな関係が? つかみでそう思わされたところで、すでに読者は著者の手のうちだ。やがて柚木さんが語りだす、『氷点』で描かれている原罪とゆるしについて気づけば思いを馳せている。主人公の女性が抱いていた“モテたい”という浅はかな痛々しさに言及されると、さらに作品は自分の身に近くなる。本棚の肥やしが、直近の娯楽に変わったことは言うまでもない。

 たとえば『危険な関係』(コデルロス・デ・ラクロ)。「女子校出身なんですか。どうりで。デビュー作の『終点のあの子』で思ったんですけど、女子校って陰湿でドロドロしていて本当に怖いですね」と初対面にもかかわらず言われることが増え、落ち込んだという柚木さんの体験が綴られているのを読んで、憤慨するファンは多いのではないか。いやいや一口に怖いとか陰湿とか括らないでくれよ、女子の関係ってもっと繊細で絶妙で、好きとか嫌いとかでは割り切れない“愛”が確かにあるということを柚木さんはこれまで書き続けてきたじゃないかよ!と。そうして気づく。「女のドロドロ」の代名詞である『危険な関係』を、自分も浅はかなイメージをもとに遠ざけてはいなかっただろうかと。特にフランス文学編は、修道院育ちのヒロインが多い19世紀ごろの作品が好きという柚木さんならではのセレクトで、ファンならば惹かれずにいられないラインナップとなっている。

 ほかにもヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を、英国ドラマ『ダウントン・アビー』をからめて紹介するなど、柚木さんらしい視点が満載の本書。あとがきにあるように、本書をきっかけに名作をためしてみるも、印象をとらえなおすもよし。何なら読んだ気になって終わったっていい。柚木さんの織りなす「世界名作劇場」の世界を、まずはぜひ堪能してみてほしい。

文=立花もも