ヌード鑑賞の入門書! 澁澤龍彦による“裸婦”に潜むエロスの徹底解剖

文芸・カルチャー

2018/6/30

『裸婦の中の裸婦(河出文庫)』(澁澤龍彦・巖谷國士/河出書房新社)

“裸婦”、すなわち裸の女性は、絵画や写真、彫刻、人形にいたるまで、さまざまな芸術作品の中に見られる。芸術作品の中、もしくは実際に目の前に存在する裸婦を眺めたとき、単なる性的刺激にとどまらない“壮大で奥深いエロティシズム”に圧倒された経験はないだろうか?

 優れた裸婦像の美しさは、時として単純な女体の美しさを通り越し、得も言われぬ感動を与えてくれる。それゆえ、裸婦の写真や絵画、彫刻などを好む人は老若男女問わず多い。

 しかしながら、芸術の中から自分好みの裸婦を探し出して深く観察するという行為は、 美術史などに精通した人物でなければ難しいだろう。意欲をそそられて美術の専門書を開いてみても、その堅い内容を素人が吸収するのは難儀で、疲れ、果てには飽きてしまう。

 そこで皆様に“裸婦の入門書”としてご紹介したい書籍が『裸婦の中の裸婦(河出文庫)』(澁澤龍彦・巖谷國士/河出書房新社)である。エロティシズムやサディズムの研究でも有名な作家、澁澤龍彦の遺著である本書では、「“男の中の男”や“女の中の女”がいるのだから、“裸婦の中の裸婦”も存在するはずだ」という出発点から澁澤選りすぐりの“裸婦”が12点紹介されている。

■年上女性のエロティシズム——受身で奉仕する男の快楽

 本書の「臈たけた(※)女」という章では、「愛と時のアレゴリー」(ブロンツィーノ)という絵画に対する観察がなされている。この絵は、なまなましい肉感性のあるエロティックな裸の女性を少年が後ろから抱えるようにして、彼女の乳首を指のあいだに挟みつつ接吻をしている様子が描かれているものだ。

 この絵には「嫉妬」「欺瞞」「時」という要素が隠されており、「愛」という悪徳を説いているものである、というのが表向きの一般的な解説だが、この絵画が本当に表現したかったのはエロティシズムに他ならないと著者は観察する。

「Z字型のポーズの臈たけた女性と、尻を後ろに突き出しあられもない格好をしている美少年のカップルは、どう見ても淫蕩そのものだ。少年は女性に甘えながらも、経験を積んだ“年上の女”に手もなく翻弄され、実は青色吐息、といった状況にも見ることができる」と、本書。

“澁澤節”の効いた解説を読みながらこの絵をまじまじと眺めていると、今となっては郷愁の念を禁じ得ないような、少年期特有のエロティックな心情がうずきだす感じがする。

※読:ろうたけた/意:洗練されていて美しいこと、または、さまざまな苦労や経験をして成熟していること

 一括りに裸婦と言っても、それぞれの裸の女性には大小さまざまな要素や思惑が詰め込まれている。本書は美術史の序列や通念などはほとんど問題にせず、もっぱら澁澤の個人的な「好み」だけで作品を選び、称え、論じていく姿勢だ。しかし澁澤は決して主観や主義主張に走らず、客観的に論じながら、多くの人が納得できるような普遍的なツボに到達する。

「芸術は本来、堅い解説などを読んで専門知識を無理に吸収したりせずとも、もっと自由気ままに感受性を働かせながら楽しめるものなのだ」ということに、本書は改めて気づかせてくれた。

文=K(稲)