「君は死んだとき、最後に何を思った?」――若者から圧倒的支持!『この世界に i をこめて』の魅力

文芸・カルチャー

2018/11/17

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『この世界に i をこめて』
(佐野徹夜/KADOKAWA)

 新人作家・佐野徹夜の勢いが止まらない。第23回電撃小説大賞で〈大賞〉を受賞したデビュー作『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜/KADOKAWA)は、30万部を突破する大ヒットを記録した。続く本作『この世界に i をこめて』も、既に10万部を超えているという。若者から圧倒的支持を受けるこの2作に共通するのは、“愛する人の死”だ。

To:吉野
君は死んだとき、最後に何を思った?
何を感じた?
僕は、それが知りたい

 主人公の染井浩平は、半年前に死んだ女友達・吉野紫苑のアドレスにメールを送り続けている。だが、それは当然、彼女には届かない。彼女のアドレスは、家族によって既に削除されているからだ。染井は、まるでそれが並行世界の彼女とつながっているかのように、今日もメールを打つ。つまるところ、彼は彼女の死を受け入れられていないのだ。

「私さ」
「小説で世界を変えたいよ」

 染井と吉野――ふたりの共通点は、“小説を書くこと”だった。中学1年生のとき、染井は文芸部の部室で吉野と出会い、彼女が書いた小説に衝撃を受ける。吉野は、まもなく文芸新人賞を受賞し、中学生ながらにデビューすることに。だが、“小説で世界を変えたい”と願った彼女は、道半ばで死んでしまい…。それなのに、死んだはずの吉野からメールが届いたことによって、大切な人を亡くした染井の旅が始まる――。

 私たちの人生にも、大切な人と別れる瞬間はくる。死別ではなくとも、進路が分かれたり、恋に破れたり…と、いろいろな別れがある。ときには自らの半身のように感じている人を失い、とてつもない喪失感に打ちひしがれることもあるだろう。だが、その後も私たちの人生は続いていく。

 本作のキーワードは“並行世界”だ。私たちが読んでいる小説は、もしかするとありえたかもしれない“並行世界”のひとつである。そして、小説が現実をもとに書かれるように、“並行世界”の物語は、私たちの人生に影響を与える――。ふたりを引き合わせた小説は、今度は染井が前を向くための鍵になる。

『君は月夜に光り輝く』で鮮烈なデビューを飾った著者は、本作でさらに完成度の高いラブストーリーを見せるとともに、これからの長い作家人生に向けて、小説に対する自らのスタンスを宣言している。筆者には、それは著者のさらなる飛躍への第一歩に思える。そう考えると、10月25日に発売された新刊『アオハル・ポイント』には、いやでも期待してしまう。

文=中川 凌