27歳漫画家・仕事ゼロ。「もしかして人生詰みかけ?」から脱出するため、ツイッターに賭けてみたら…『バズったら人生変わるかな?』

マンガ

更新日:2024/1/31

『バズったら人生変わるかな?』(阿東里枝/KADOKAWA)

 創作活動をしていると、他人と比べてしまい、自分の不甲斐なさに落ち込むことがある。今はSNSで誰かの成功体験が次から次へと流れてくる時代だ。

「書籍化しました」「重版しました」の報告に喜ぶことができず、自分の実力に絶望する。

「好きではじめた創作活動なのに……」と、身動きが取れなくなった時、一体どうすればよいのだろうか?

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『バズったら人生変わるかな?』(KADOKAWA)は、漫画家目指して10年、読みきりを掲載するも、中々連載が決まらず、追い詰められた阿東里枝さんが、ツイッターで起死回生をはかる赤裸々奮闘記が描かれている。

 阿東さんは、7年前にデビューしてからずっと、連載会議でボツボツボツボツの嵐。同年代のライバルが続々デビューする中、仕事ゼロ、貯金も底を尽きてきて、27歳という年齢にも不安を覚えていた。大いに葛藤するも、夢をあきらめることができない。


 そこで彼は、心の中に「はげまし妖精」なるイマジナリーフレンドの「チアちゃん」(美少女)を生み出し、選んだ道を前向きに歩んでいこうと模索する。


 そんなある日、阿東さんはSNSで気になった作家さんと作業通話をすることに。その作家さんは、作業中もテンション高く、独りごとを呟きながら嬉しそうに絵を描いていた。

 その様子を見ていた阿東さんはハッとして「…俺ここ最近あんなに楽しそうに描いたか」と自身を振り返る。そして、会議に通ることばかり考え、苦しさしかなかった現実に気づき、自分の「楽しい」を詰め込んだネームを描くことにするのだが……!?

 阿東さんの人生が動き出したきっかけは、他人と比べる生き方をやめ、「楽しくマンガ描いていたい!!」と決意したことだった。


 そうして、ツイッターにマンガを投稿したところ、軒並みバズり、フォロワーも大幅に増加する。

 広告マンガの依頼や、ツイッターにあげたマンガの出版を目指さないかと声もかかり、「…バズッたら俺の本が出る…? バズッたら人生変わるかな…?」と、時には挫けそうになりながらも、面白い方向に目を向けることを忘れずに、一歩一歩進んでいくのだ。

 本書は、とても可愛い「はげまし妖精」チアちゃんや、その妹たちも登場し、阿東さんをいつも優しく励まし、的確なアドバイスを送っている。

 阿東さんが仕事や用事に忙殺され、「苦しさを耐え抜くんだ…そしたらきっと強くなる『麦は踏まれて強くなる』って言うもんな」と泣きながら作業をしていると、チアちゃんが、

「あれ? 阿東くんって麦でしたっけ?」

 と突っ込み、自身は麦ではなく人間で、踏まれたら痛いことを思い出すシーンは、特に印象的だった。


 チアちゃんたちは阿東さんに、自分で自分を褒める大切さや、人と関わり、様々な作品に触れ、感情を動かすことが、やる気や結果に繋がることも伝えている。

 ツイッター漫画家はRTやいいねの数が気になってしまうこともあれば、ダイレクトにキツイことも言われるので、きっと苦労も想像以上なのだろう。だが、自分の心と体を大切にしながら、楽しむことを忘れずに人生を変えようと奮闘する阿東さんの様子に、読む側の心も徐々に穏やかになり、肩の力が抜けていくのを感じた。

 夢は努力しても、叶うとは限らない。だが、昨日より少しでも努力できた自分のことを認めながら、前向きに頑張ろうと大いに励まされるマンガである。

文=さゆ