日本人女性が覚せい剤密輸により異国で死刑判決! 国際犯罪に巻き込まれたある女性の人生

文芸・カルチャー

2019/12/8

『死刑囚メグミ』(石井光太/光文社)

 海外で起きた戦争や事件は、ニュースで目にしてもどこか他人事のように感じられてしまうものだ。たとえば同じ日本人が事件に巻き込まれたとしても、安否を気にしつつ、「日本にいる自分には関係がない」と心のどこかで思ってしまう…。だが、他人事のように感じていたある出来事がトリガーとなって、自分の人生が大きく変わることもあるのかもしれない。そう訴えかけるのが、小説『死刑囚メグミ』(石井光太/光文社)。本書は、バタフライエフェクトの恐ろしさを訴える警告としても読める一作だ。
 
 著者の石井氏は国内外の事件や災害、貧困に目を向けてきたノンフィクション作家。これまでにはアジアや中東の貧困に目を向けた『絶対貧困 世界リアル貧困学講義』(新潮社)や、命の価値を問う『レンタルチャイルド 神に弄ばれる貧しき子供たち』(新潮社)を執筆してきた。
 
『死刑囚メグミ』は、自らの目で世界の現状や不遇な運命を強いられた人々を見てきた石井さんだからこそ完成させられたフィクションだといえる。アメリカ同時多発テロや日本のバブル崩壊、イラン・イラク戦争などに翻弄された人々の姿が克明に描かれており、読み進めながら思わず固唾をのんでしまう。

■日本人女性が覚せい剤密輸に…彼女は裁かれるべきなのか

 物語は、マレーシアにあるクアラルンプール国際空港での逮捕劇から幕を開ける。東北の小さな町出身の日本人女性・小河恵は5.5kgの覚せい剤が入ったキャリーケースを密輸しようとしたとして逮捕された。

 マレーシアでは50g以上の覚せい剤の持ち込みに対して死刑判決が下されるという。恵は見知らぬアラブ人からキャリーケースを預かっただけで中身が覚せい剤だとは知らなかったと主張。しかし、高等裁判所の一審でも死刑判決が覆ることはなく、弁護士は控訴の意志を見せていた。

 それから1年後、新聞記者の東木幸介は、自分の元同級生である恵がなぜ密輸に関わったのかを取材することに。面会した恵は裁判と同じく、キャリーケースの中身は知らなかったとくり返した。

 しかし、調査を進めていくと、恵は逮捕前から時々クアラルンプールにある高級ホテルに泊まっていたことや、マレーシアに男性の友人か恋人がいたらしいことがわかってきた。だがその男性は事件の直後にどこかへ引っ越していた。

 一体、恵はどんな人物たちと関わりながら生活していたのか…。幸介は事件の全貌を突き止めるべく、恵の母親にも協力してもらいつつ、彼女の人生を探る。すると、事件の背景には国際犯罪組織の影と恵が人生を捧げたいと思ったある人物への“絶対的な愛”が。果たして小河恵という人物は、裁かれるべき人間なのだろうか――。

■人生は強風に吹き飛ばされる“砂”のようなもの…?

 食料にも衣服にも困ることのない生活が当たり前のようにくり返されているのが、一般的な日本の現状だ。しかし、私たちが今生きているこの場所は、世界のあらゆる情勢が複雑に絡み合ったうえで成り立っている。平穏な日常がある日突然崩れてしまい、想像しなかった生き方を強いられることだって十分にあり得るのだ。人生を“砂”にたとえた本書の一節を目にすると、価値観が揺らぐだろう。

“戦争、経済制裁、大統領の一言、そうしたことが強風となって吹きつけて、人の人生をまるで砂のように吹き飛ばしてしまう。そこで死んでしまう人もいるけど、生き残った人は吹き飛ばされた場所で必死に生きていかなければならない。”

 世界の貧困や裏ビジネスに目を向けてきた著者の想いが詰まったかのようなこの文を目にすると、メディアから流れてくる海外の悲惨なニュースも他人事には思えなくなるだろう。豊かな生活が永遠に続く保証は、どこにもない。目の前の日常が崩れた時、私たちはどうやって自分や大切な人を守っていくのか。平和の危うさに気づかせてくれる本書は、そんな問いを投げかけている。

文=古川諭香