「緋色」の色名は平安時代の表記が由来! 色の名前から日本や世界の歴史に思いを馳せる『色の名前事典507』

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公開日:2021/7/9

色の名前事典507
『色の名前事典507』(福田邦夫/主婦の友社)

 あなたは色の名前をいくつ言えるだろう。色には赤・青・黄といった超ベーシックな色(たとえば色鉛筆セットにあった色たちのような)だけでなく、浅葱色(あさぎいろ:あざやかな緑みの青)や臙脂色(えんじいろ:つよい赤)といった日本に昔からある色のほか、スカーレット(あざやかな黄みの赤)やターコイズブルー(明るい緑みの青)といった西洋に起源のある色などさまざまなものがある。

 実はそうした色のひとつひとつに、その色が生まれた背景や物語がある。『色の名前事典507』(福田邦夫/主婦の友社)は、そんな奥深い色の世界を知ることができる興味深い1冊だ。

 そもそも色にはJIS規格で定められた269色の慣用色というものがある。本書ではそれらの色をピンク系/赤系/オレンジ系/茶系など全部で9系統にわけて紹介していくが、たとえばピンク系ひとつとっても、桜色、ベビーピンク、シェルピンク、ネールピンク、鴇色(ときいろ)、珊瑚色、サーモンピンク…と実にさまざま。さらに日本や世界にはJIS規格にはない色もさまざま存在しており(たとえば日本古来の色は「日本の伝統色」と呼ばれている)、本書で紹介するのは実に507色! すべてに「色見本」がついているので実際に色を確かめられるのもうれしいが、ちょっと見ただけではわかりにくい微妙すぎる差もあって(色を数値的に分解したデータを見ると、微妙に数字が違う)、「人はなんと多くの色を見出してきたものか!」と驚くに違いない。

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 そんな「人の感性」の面白さをさらに味わえるのは、本書の軸でもある色の名前にまつわるエピソードの数々だろう。色の名前には植物などの自然から見出されたものが多く、中でも日本では歌に詠んで色にさまざまな思いを投影してきたりもした。

 たとえば着物の色などで聞いたことがあるかもしれない「緋色」(ひいろ:茜染の最もあざやかな黄みの赤)は平安時代には「思いの色」と呼ばれてもいたとのこと。「当時は思いを『思ひ』と書いたので、思ひの「ひ」から火が連想され、さらに緋につながって、熱き思いを緋色で表すようになった」という。

色の名前事典507 p.42-43
※お使いのモニター設定、お部屋の照明等により書籍と色味が異なる場合があります

 同じく西洋の色も自然に由来するものが多いが、たとえば若者ファッションでも人気の色「カーキー」(くすんだ赤みの黄)は、ペルシア語やヒンズー語で「塵、埃」を意味する言葉に由来する。実は1848年にインドに駐留していたイギリス軍のある部隊がこの色の軍服を採用したことが色の名前になったとのことで、現地語をそのまま使ったというのがいかにも軍隊らしいストレートさ。

色の名前事典507 p.142-143
※お使いのモニター設定、お部屋の照明等により書籍と色味が異なる場合があります

 こうした色の背景を知ると、どうしてこんなに微妙な色がいくつもあるのかの理由も見えてくる。歴史好きの人にオススメなのはもちろんだが、知っておくとちょっとした会話のネタにもなりそうだ。

 実はこの「色の名前事典」はもともと1994年から刊行されている人気シリーズで、近年色名研究が進んだことと、2001年にJIS規格の「物体色の色名」が改正されたことを受けて2006年に決定版、2012年には新版が登場。本書はさらにそこに新たなデータが加わった最新版であり、「色の世界がこの1冊でわかる!」といってもいい1冊となっている。

 なんとなくながめたり、目がとまった色のページを読んだり…使い方は自由だが、こうした本が手許にあれば、世界がよりあざやかに、より奥深く見えてくることだろう。

文=荒井理恵

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