日本最古の貨幣といわれる「和同開珎」にも贋物があった!? 時代ごとに見る贋金の歴史

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/25

ニセ札鑑定人の贋金事件ファイル

著:
出版社:
主婦と生活社
発売日:
ニセ札鑑定人の贋金事件ファイル
『ニセ札鑑定人の贋金事件ファイル』(吉田公一/主婦と生活社)

 人から人へと感染する新型コロナウイルスによる心理的影響か、日本でもより電子マネーの普及が進んできたという。とはいえ、日本の現金主義が根強いため、キャッシュレス化が遅れているというよりは、海外の場合、銀行から引き出したお金にさえニセ札が紛れ込んでいるケースがあり、現金の信用度が低いからなんて事情も関係しているらしい。その辺の事情などに興味が湧いて、『ニセ札鑑定人の贋金事件ファイル』(吉田公一/主婦と生活社)を手にしてみた。

 日本には、国家公安委員会が定めた「偽造通貨取締規則」というものがあり、国内で発見されたすべての偽造通貨は警視庁の「科学警察研究所」において、真贋を見分けたり偽造方法を見極めたりする。そして著者は、全国の裁判所から文書などの鑑定を受命して、ロッキード事件における領収書や、大韓航空機爆破事件の犯人の偽造旅券の鑑定に携わってきたそうで、贋金鑑定はそれらの仕事の範疇というわけだ。

古い技術を使う偽造通貨と、最新技術を使う偽造紙幣

 贋金の歴史は、すなわち貨幣の歴史でもある。日本で最初の貨幣と云われる「和同開珎」が登場した奈良時代に、「私鋳銭禁止令」が出された記録があることから、すでに贋金が出回っていたとみられる。室町時代には、室町幕府第4代将軍である足利義持が幕府に命じて「永楽通宝」の模造銭を作らせたものだから、国外から持ち込まれた唐銭や明銭などと一緒に市中に出回り、「ゼニの暗黒時代」になったそうだ。

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 面白いことに今日でも偽造硬貨はどれも「鋳物」で作られていることが多く、千数百年もの間、同じ技術が引き継がれている由緒正しい伝統ある代物だという。もっとも、現在の真貨のように圧延やプレス加工をするのが大変で、容易に真似できないからなのだが。そして、鋳物は冷えるときにデンドライト(樹枝状結晶)が現れるので、それが見破るポイントとのこと。

 一方、お札の方はというと、江戸時代に重くてかさばる硬貨を厭う商人が作った手形が最初の紙幣と云われており、また越前の福井藩が藩内で使うために編み出した「藩札」も紙幣と考えられるそう。多くは木版印刷だった藩札も、幕末には偽造されにくい銅版印刷となり、明治政府が発行した札が日本初の政府紙幣となった。昭和に入って紙幣が凹版と凸版を併用して印刷される頃にもなると、商業印刷に定着した写真製版によるニセ札が出回り、近年ではカラーコピーというように「その時代を代表する印刷技術を追っている」ようで、硬貨とは対称的である。

世界共通のニセ札防止策は日本の技術

 日本の刑法では、「通貨偽造罪」と「同行使罪」は「無期または3年以上の懲役」となっており、殺人罪が「死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役」と考えると、量刑としては重い部類であることが分かる。その理由について著者は、判例をもとに「日本国民全体を騙すことになり、世の中のお金に対する信頼をなくすことになるから」と解説している。戦争などの有事では国家間での買い付けに偽造紙幣を用いたように、歴史においては国家的規模のニセ札謀略作戦が実行され、近年でも国家的に作られたと噂される「スーパーノート」の登場で、デザインの長寿を誇っていたアメリカドルが改刷される事態にもなった。ニセ札は国家レベルの一大事なのだ。

 さて、印刷技術が向上するに従ってニセ札の技術も上がってきているわけだが、もっとも単純と思われるコピー機やスキャナー、あるいは画像処理ソフトを使う方法は現在では、ほぼ不可能となっている。それは、「ユーリオン」と呼ばれる世界共通のパターンが紙幣に印刷されており、読み取り側の機器やソフトウェアが検知すると複写を受け付けないからだ。この技術は、日本の電気製品メーカーであるオムロン(旧立石電機)が開発したものだそうだ。

 

見本と一部の図柄が異なる謎の五千円札の真相とは?

 偽造防止策としては、うっすらとお札に画像などが施された「スカシ」を思い浮かべる人が多いだろう。そのスカシには「黒スキ」と呼ばれる技法があるのだが、なんと「すき入紙製造取締法」という法律があって、私たちがお札と呼んでいる日本銀行券や政府が発行する証券類や日本国旅券以外では、使用はおろか製造も禁止されている。つまり、ニセ札でなくとも本物の紙幣に使われているような黒スキによるスカシを施したものを印刷したら、それだけで罪になるのだ。ところが、ある日「ニセ札の疑いがある」として著者のもとに届けられ鑑定した五千円札は、印刷方法など間違いなく真券そのもの。しかし、当時の大蔵省理財局から鑑定の対照用として提供されていた五千円札の見本とは一部の図柄が異なる。果たして国家規模の偽造事件なのか……本書で確かめてみてほしい。

 ヒントは、著者の言によれば、世の中には「ボロを出す」という言葉があるように、ニセ札などは「ボロの上にボロを重ねたボロボロの印刷物」で、印刷業者が「この程度の印刷ではどれも返品だ」というレベルの物しか作れず、「この世に精巧なニセ札はない」と断言していること。かかる手間と受ける罰の重さを考えたら、贋金作りは真似事すらやめておいたほうが良いものだということがよく分かる。

文=清水銀嶺

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