あの頃のふたりが紡いだかけがえのない時間――今話題の恋愛映画から生まれたフォトストーリーブックが登場

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公開日:2021/12/21

「海行きたいね」と彼女は言った
『「海行きたいね」と彼女は言った』(燃え殻:原作、C&Iエンタテインメント:監修/左右社)

 現在、Netflixでの全世界配信と同時に映画館でも公開されている映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』。原作は作家の燃え殻氏が2016年に発表した同名の恋愛小説。ウェブでの連載当時から話題となり、新潮社から単行本が刊行されベストセラーとなった(2018年に文庫化)。「今、もっとも共感を呼ぶ恋愛小説」といわれる作品の映画化だけあって、主人公は森山未來(佐藤誠役)、ヒロインは伊藤沙莉(加藤かおり役)、脇を東出昌大、大島優子など豪華なメンツが固め注目が集まっている。

 そんな話題の映画に、このほどスピンオフ的なフォトストーリーブックが登場した。『「海行きたいね」と彼女は言った』(燃え殻:原作、C&Iエンタテインメント:監修/左右社)だ。佐藤とかおりの「大切な時間」を記録したプライベートなアルバムのような一冊だ。

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 本の紹介の前に、まずは映画のストーリーをざっと振り返っておこう。

 物語の舞台は1995年から2020年の東京。横浜黄金町に近い製菓工場で働いていた佐藤は、アルバイト情報誌の文通欄で小沢健二好きのかおりと知り合い、手紙のやりとりで関係を深めていく。原宿のラフォーレ前で待ち合わせたふたりはやがて恋人に。佐藤はかおりと出会ったことで生まれて初めて「頑張りたい」と思うようになる。サブカル好きで“普通”が嫌いだというかおりに認められたくて、東京の映像関連会社に就職した佐藤。ブラックな環境にもめげずにがむしゃらに働くが、1999年の最後の日にノストラダムスの大予言ははずれ、かおりはさよならも言わずに去ってしまう――その後20年、社会と折り合いをつけながらなんとか生きてきた佐藤。ある日、心の奥にある「かおり」の存在がふとしたことで蘇り……。

 フォトブックに描かれるのは、映画では描かれなかった、あの頃の佐藤とかおりの、ふたりだけのかけがえのない時間だ。本書はそんな1日を写真とストーリーで描き出す。映画本編では90年代後半の渋谷系だった時代の景色にキュンキュンさせられるが、この本の舞台となる伊勢佐木町の映画館~大岡川沿いの商店街~石川町の高級住宅街~山下公園のレトロな空気もとてもいい。

「海行きたいね」と彼女は言った

「海行きたいね」と彼女は言った

「海行きたいね」と彼女は言った

 いろいろ当てがはずれたのに「なんか今日はついているね」と言うかおりと、「ああ、今日は幸せだな」と思わず口にする佐藤。そんなやりとりは映画の台本を模してあるが、写真はまるで佐藤がどれもインスタントカメラでプライベートに撮ったようなかおり(伊藤沙莉)の自然な表情ばかりだ。彼女を見つめるそのまなざしは、まぶしさとせつなさを行ったり来たり。たぶんこの先、ふたりが別れなかったとしても、この日はきっと、二度とない特別な日――そんな輝きが心に残る。

 序文とあとがきを寄せるのは、原作者の燃え殻氏。映画の世界をさらに深く味わえるのはもちろん、この本があなたの心の奥にもある「特別なあの日」を思い出させてしまうかもしれない。

文=荒井理恵

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