不倫相手を失った夫が久々に妻に迫るのだが…「セックスレス」をきっかけに夫婦のあり方を問う家族小説

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/3

したいとか、したくないとかの話じゃない
『したいとか、したくないとかの話じゃない』(足立紳/双葉社)

 セックスレスの問題は、ただセックスをすれば解消されるというものではないということを、これでもかというほど思い知らされる小説『したいとか、したくないとかの話じゃない』(足立紳/双葉社)。夫婦となり、親となり、そして家族になるということの認識の違いがとことん描かれるので、正直、読みながら目をそむけたくなるような気持ちにもたびたびなったのだけど、それでも最後まで一気に読んでしまったのは、目をそむけたままでは何も解決しないということもまた、この小説が描きだしているからだと思う。また、著者の足立紳氏は、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した安藤サクラ主演の映画『百円の恋』の脚本を手掛けたとあって本作にも注目せずにはいられない。

 脚本家の夫と結婚し、小劇場の女優から主婦へとクラスチェンジした恭子。結婚し、子どもを産むことで夢を諦めた彼女の結婚には、そもそも“逃げ”の部分があった。それでも夫のことが好きで尊敬していたから、ささやかな幸せを満喫していたはずなのに……息子・太郎が5歳のころ、ひそかに応募したシナリオコンクールで大賞を受賞してから生活は一変する。落ち目になってきた夫・孝志が、恭子の受賞を心から喜んではくれず、忙しそうにしていると不機嫌になること。家事・育児に対してどこか他人事で、家にいるのに主体的に動いてくれないこと。太郎に発達障害の疑いがあり、どんどん頑固になり、癇癪を起しやすくなっていること。そのすべてが恭子を追い詰め、怒りを爆発させていく。

 しかも恭子は知る由もないが、孝志が1年半も前から不倫していたことが物語の冒頭では明かされる(やはり売れない女優だった不倫相手がオーディションに合格したのを機に捨てられてしまうのだが……)。恭子と孝志、2人の視点で展開していく本作は、両者の言い分をフェアに映し出してはいるけれど、不倫のことを差し引いても、孝志のほうが分が悪いし「そんな自分の都合ばかり押しつけてくる男と、セックスしたいなんて思えるわけないじゃん……」と恭子にいたく共感してしまうのだが、おもしろいのは、読み進めていくうちに、恭子は恭子で問題があるなと思わされてしまうこと。

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 パート勤めは誰にでもできる仕事と馬鹿にされ、いつだって孝志の都合を優先し、選択権を譲り続けてきた恭子は、受賞を機に「自分」をとりもどしたことで、どんどん強くなっていく。これまでは気分が乗らなくても求められればセックスしていたけれど、拒絶することを覚えた彼女は、「そろそろセックスしたい」と懇願してくる孝志に対して、立場が上だ。これまでの不満を爆発させ、自分が被害者であったことを主張することで、彼女もまた孝志を追い詰めていく。孝志は孝志なりに、恭子の心をとりもどそうと必死なのだ。ピントはずれているし、これまでの行いが悪すぎるから、すべて裏目に出てはしまうけれど、なんだかかわいそうにもなってしまう(が、恭子が受け入れられない気持ちもすごくよくわかる)。

 すれ違う夫婦関係に悩み「どうしてわかってくれないんだろう」とイライラすることのある人はぜひ、読んでみてほしい。自分のパートナーが何を考えているか。問題を解決するために自分はどう行動するべきなのか。その糸口がもしかしたら見つかるかもしれない。

文=立花もも

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