実家に帰るのが嫌だ! ずっと仲良しだと思っていた「うちの家族」は過干渉でした

マンガ

更新日:2022/3/3

実家に帰りたくありません
『実家に帰りたくありません』(イタコ/白泉社)

 昔、必死に道化を演じていたことがある。自分がピエロになれば、過干渉な母と酒に溺れる父が罵り合う日常に少しだけ笑顔がこぼれたから。その笑顔が例え、自分に向けられた嘲笑であったとしても、家族が笑ってくれるのならば、それでよかった。

 そんな風に、人の顔色をうかがい、自分より家族の気持ちを優先した生き方をした経験があるからこそ『実家に帰りたくありません』(イタコ/白泉社)に描かれている、実親との戦いを目にした時、涙がこぼれた。同じような生きづらさや孤独感、葛藤を抱えてきた人が、ここにもいたのだと知れ、勇気づけられたのだ。

 本作は子育てを機に、実の親との関係に疑問を持つようになった作者が、過干渉な両親と決別するまでの道のりを描いた、コミックエッセイ。作者は何回、涙を流し、悩み、この作品を仕上げるほどに強くなったのかと考えると、胸が熱くなる。

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自他ともに認める仲良し家族だと思っていたのに…?

 イタコ家族は、休みの日にはみんなで食事に出かけ、毎年、旅行をするなど、昔から一家そろって行動することが多かったため、周囲の人からよく「家族仲がいい」と言われていた。

 学生時代、イタコは友達ができると、まず家族に紹介。いい反応をしてもらえると嬉しくなり、逆にあまりよくない時は不安になった。

 イタコにとって家族は、物事の良しあしを判断する基準であり、自分の世界の中心。両親との関係に疑問を持つことはなかった。

 ところが、結婚し、子どもを産み育てるようになると、自分の家族はなにかおかしいと思うように。父親はこちらの都合を無視し、毎週末、家に来いと言うわりに孫の相手をせず、母親は対面時には優しいのに、後からイタコの姉にイタコの愚痴をこぼす。

実家に帰りたくありません

実家に帰りたくありません

 両親は旅行に連れて行ってくれたり、贈り物をしてくれたりする姉夫婦をベタ褒めし、ひいきした。相対的に、イタコたちは気が利かない薄情な夫婦という位置づけになり、皆で集まると、イタコの夫は雑な扱いをされていた。

 なんだか最近、実家に帰りたくない…。いつしかイタコは、そう思い始めた。

 そんなある日、娘のお受験を無理強いされそうになったことを機に、イタコは実家と距離を置くように。偶然にも、その後、世間はコロナ禍となり、生まれつき呼吸器が弱い娘を守るため、イタコたちはステイホームを徹底。実家とは、ますます疎遠になった。

 それからほどなくし、父親から「そろそろ実家に来い」と誘いの連絡が。娘のためにも、ここはゆずれないと思ったイタコは思い切って自己主張。すると、返ってきたのはあまりにもひどい言葉だった。

実家に帰りたくありません

実家に帰りたくありません

実家に帰りたくありません

 その日から、イタコはモヤモヤ。第三者の客観的な意見が聞きたくなり、電話カウンセリングを受診。その結果、気づいたのが、自分の家族は過干渉だという事実だった。

 実家の近くに住んでいるため、物理的な距離をとるのは難しい。そこで、イタコは勇気を出し、家族療法を受けようと、両親たちを説得。しかし、返ってきたのは、予想のななめ上をいく返答だった――。

「ダメなイタコ」を罵ることで繋がっていた家族

 本作には、イタコがこれまでに経験してきた、親からの理不尽な扱いが具体的に描かれており、似たような環境を生き抜いてきた人の胸を打つ。

 実は、イタコ宅では昔から姉妹格差があり、両親は姉をひいき。イタコは道化を演じることで親の気を引き、不仲な両親を笑顔にしていた。

実家に帰りたくありません

 その結果、イタコに貼られたのは「ダメな子」というレッテル。一家は「ダメなイタコ」の悪口を言いながら笑い合うことで、コミュニケーションをとっていたのだ。

 イタコは一体、家族と過ごす日々の中で、どれだけ本当の自分を殺し、心をすり減らしてきたのか。そう想像すると、心が痛み、同時に一家が背負っているであろう心の闇も気になった。

 もしかしたら、イタコの家族は皆、何らかの理由から自尊心が削られ、自分に自信を持ち、安堵するためにイタコには「ダメな子」でいてもらわなければならなかったのかもしれない。ひとりの人を完全な悪と言い切れない部分があるから、実の親との問題は解決が難しいのだ。

 自分を苦しめる家族と適切な距離を保つことは、簡単ではない。幼い頃から苦しめられた私たちはつい、自分の本心を押し殺し、家族の願望を優先的に叶えようと力んでしまう。

 だが、あなたの人生は親のものではなく、あなた自身で決めていいものだ。本作との出会いを機に、ひとりでも多くの人が自らの置かれている状況を客観視できるようになり、心が軽くなる親との距離を見つけられることを願う。

文=古川諭香

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