ミリオン達成間近!サラリーマン小説『神様からひと言』が長く読み続けられる理由は?

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/7

神様からひと言
『神様からひと言』(荻原浩/光文社)

 2005年に発行されて以来、足掛け18年にわたり、ロングヒットを続けている文庫がある。その文庫とは、『神様からひと言』(荻原浩/光文社)。直木賞作家・荻原浩さんによるこの長編小説は、51刷となり、ついに昨年末に累計発行部数90万部を突破。2022年には100万部を突破しそうな勢いなのだという。どうしてこの作品は、こんなにも長く読み続けられてきたのだろう。サラリーマンならば、誰もが虜にさせられるに違いないその魅力をご紹介しよう。

不器用な主人公に共感…ユーモアたっぷりに描かれるサラリーマンの悲哀

 この作品では、サラリーマンが感じる苦労が面白おかしく描き出されていく。主人公は、大手広告代理店を辞め、ポンコツ企業「珠川食品」に中途入社した27歳・佐倉凉平。そのハードな日常は会社勤めの経験がある人ならば、誰もが身につまされるだろう。物語は社内の新商品の会議から始まるのだが、いきなり共感。無理難題をふっかける上司と、青ざめる担当者、上司を支持するイエスマンたち。まともな人がいない絶望の社内会議に既視感を覚えたのは私だけではないと信じたい。ユーモアたっぷりの描かれかたに何度クスッと笑わされたことだろうか。そして、感じたことをそのまま口に出してしまう涼平は、会議でトラブルを引き起こし、入社早々、リストラ要員収容所の「お客様相談室」へ異動に。「お客様相談室」の業務は、お客さんから寄せられる苦情の処理。だが、あまりにもいい加減な「珠川食品」は、正当な苦情に毅然と対応できるほど、商品に自信がない。こんな会社は嫌だな……。そんな理不尽の中で葛藤する、不器用すぎる主人公を応援せずにはいられなくなる。

仕事にも役立ちそう!「謝罪のプロ」の鮮やかなクレーム対応、名言の数々にグッとくる

 涼平が異動した「お客様相談室」には個性的なメンバーが集うが、中でも最も強烈なのが、「謝罪のプロ」篠崎だ。この篠崎の存在が、この小説の一番の魅力といっても過言ではないだろう。競輪新聞片手に仕事をサボってばかりだし、発言も下品。お客様への謝罪金もくすねるとんでもない人物なのだが、苦情処理は完璧で、とにかく心地よいのだ。まずは謝り、話を聞く。声色だけで相手の状況を判断し、あくまでも相手を立てつつ、適切な回答を返す。そんな篠崎の鮮やかなクレーム対応は、私たちの仕事にも生かすことができそう。さらに、篠崎の発言には名言も多く、それは、会社という理不尽の中で生きる私たちの心に響くものばかりだ。

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「狭いとこでぐつぐつぐつぐつ煮詰まってさ、部長だ課長だ役員だなんて言ったって、しょせん鍋の中で昆布とちくわが、どっちが偉いかなんて言い合ってるようなもんだ」

 次第に篠崎に尊敬の念を抱くようになる涼平。その変化と成長には静かな感動がある。

「半沢直樹」に匹敵する痛快さ!「お客様相談室」の一発逆転快進撃

 そして、この作品には会社の不条理に対抗する痛快なシーンがたくさんある。悪質クレーマーの撃退劇はもちろんのこと、終盤にかけた、会社の上層部への逆襲劇もなんとも爽快だ。会社を私物化し、責任を取らず、いい加減な仕事ばかり繰り返す彼らに、涼平は徹底的に立ち向かっていく。

「会社はあんたの遊び場じゃない。社員はあんたのおもちゃじゃない。何の苦労もせずに手に入れた肩書で、人に偉そうに指図するな。人の気持ちを操るな。他人の生活をおびやかすな!」

 会議室での立ち回りは、まるで「半沢直樹」。胸がすくような展開に、日頃の鬱憤まで解消してくれたような晴れやかな気分にさせられるのだ。

 どんな仕事をしていたとしても、息苦しさを感じるものだろう。この小説を読むと、そこから束の間、抜け出せたような気持ちになる。救われたような気持ちになる。そして、新しい挑戦への意欲がジワジワ湧いてくるのだ。読めばきっとあなたも、どうしてこの本が長い間多くの人に愛されてきたか、その理由が分かるに違いない。この小説は、働く大人たちのバイブル。世の中の「社畜」たちを救うに違いないこの作品をぜひともあなたも読んでみてほしい。

文=アサトーミナミ

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