JO1豆原一成「ギャップが激しい多聞くんに共感」推しに貢ぐ金を稼ぐため家事代行バイトをはじめた女子高生が、なんと推しの家に派遣されて……!?

マンガ

公開日:2022/3/9

多聞くん今どっち!?
『多聞くん今どっち!?』(師走ゆき/白泉社)

 推しを推すにはお金がいる!と家事代行のバイトをはじめてみたら、なんと推し当人の家に派遣されてしまう……という夢のようなシチュエーションから始まるマンガが、『高嶺と花』の著者・師走ゆき氏の最新作『多聞くん今どっち!?』(白泉社)。主人公の女子高生・木下うたげの推しは、アイドルグループ「F/ACE」の福原多聞。強すぎる顔面に、高校生とは思えない色気。グループのセクシー&ワイルド担当として世の女子を魅了し続ける彼は、しかし、プライベートではいつも同じパーカーのフードをかぶり、膝を抱えてジメジメしている、超ど級のネガティブ人間だったのだ。

 見る美容液としても名高い推しの、引くほど暗くて後ろ向きな発言の数々に、最初は「疲れているのかも」「初のドームライブ前に心労で倒れたら大変」と、公私混同を承知でファンであることを明かし、元気づけようとするうたげだけど、多聞のネガティブはさらにヒートアップ。「自分なんて産業廃棄物以下」「舞台に立っているのは本来なら応援される価値もないニセモノ」などの発言に、「ファンの愛を舐めてます?」「多聞くんは神!」「たとえご本人でもアンチは許せません!」とブチ切れ。推し当人に、いかに推しが素晴らしく崇高な存在かを布教するという、よくわからない逆転現象が起きる。さらに引退をほのめかすような発言に恐怖を覚え「それだけはならぬ!」と、いかに多聞が応援されるに値するアイドルなのか信じてもらうために、家事代行で家を訪れるたびに応援・励ましを続けることになるのだが……。

 芸能人としてトップを走り続けるには、ある種のふてぶてしさが必要だ。不特定多数のファンから、ときに家族や恋人以上の愛を注がれ、応援されて、期待される。「自分なんか」と卑下しすぎるのはファンに失礼だけど「愛されて当然」と開き直るのもまた違う。常に容姿や能力を世間からジャッジされ続けるなかで、謙虚に、適切な自信をもって、平静であり続けるのはどれだけ大変なことだろうかと、現実のアイドルを見ていても思う。ふだんはジメジメしてばかりの多聞を、マネージャー公認で支えることになったうたげは、どんなにネガティブでも舞台に立てばアイドルを完璧にやりとおす彼の姿に、ますます惹かれていってしまう。そして、泣きべそかきながらも頑張ろうとする多聞に、アイドル・多聞とはまた違う“かわいい”というキュン要素を見つけて、心を打ち抜かれ、さらなる沼にハマっていってしまうのだ。

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 相手のしょうもなさに愛しさを覚えたとき、それはかなり深い愛の入り口だ。「立場を利用して推しに近づこうとする女」がいかに憎むべき存在かわかっているうたげは、多聞に対しても節度をもって接しようとはするのだけれど、そうは言っても、かっこいいとかわいいをあわせもった推しが自分にだけ心を許してくれるなんてシチュエーション、無事でいられるはずがない。特別な存在になれなくてもいい、ただ推すことで生きる希望をもらえているだけで幸せ。そう思っていたうたげが、己のファンとしての矜持と葛藤しながら、どんなふうに多聞と距離を縮めていくのか? 推し活している人は必読の一冊である。

文=立花もも

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