ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』あらすじ紹介。育児放棄、隠し子の存在、父殺し… カラマーゾフ一家が巻き起こす愛憎劇

文芸・カルチャー

更新日:2023/4/4

 本作『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーの遺作であり、最高傑作との呼び声も高いロシア文学です。しかし宗教的で難解な部分も多く、長く重たいイメージもあるでしょう。そこで今回は『カラマーゾフの兄弟』のストーリーをわかりやすく解説します。推理小説的な趣もあるので、ぜひ原作にも挑戦してみてください。

カラマーゾフの兄弟

『カラマーゾフの兄弟』の作品解説

 著者のドストエフスキーは『罪と罰』などの5大長編で知られる、ロシアの文豪です。シベリア流刑の際、聖書の教えに触れた経験から、キリスト教的人道主義を主題として扱うようになりました。

 本作は家族の確執や父殺しの罪といった世俗的なドラマを通して、神の存在という宗教的な示唆を与え、多くの読者の人生観をも変えうる物語となっています。

『カラマーゾフの兄弟』の主な登場人物

フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ:カラマーゾフ家の父。金稼ぎの才能と、淫蕩な性格の持ち主。

ドミートリィ(ミーチャ):長男。直情径行な退役軍人。婚約者カチェリーナに多額の借金がある。

イワン(ワーニャ):次男。理科大卒、インテリの無神論者。

アレクセイ(アリョーシャ):三男。心優しく純真な修道僧。

グルーシェンカ:フョードルを虜にした妖艶な女性。

グリゴーリィ:カラマーゾフ家の使用人。

スメルジャコフ:カラマーゾフ家の料理番。使用人のグリゴーリィ夫婦に育てられた。

カチェリーナ:ドミートリィの元上司(中佐)の令嬢でドミートリィに助けられたことがある。長身で優れた容姿をもつ。

『カラマーゾフの兄弟』のあらすじ​​

 地主フョードル・カラマーゾフは、強欲で放埒な性格だった。3人の子どもがいて、長男のドミートリィ(ミーチャ)は先妻の子で、次男イワン(ワーニャ)と三男のアレクセイ(アリョーシャ)は後妻との子だった。子どもたちに関心がなく、ふたりの妻を亡くした後は親戚や友人に預け、家から追い出した。

 ある時、フョードルは「美女グルーシェンカと再婚する」と3人の息子たちを呼び寄せるも、フョードルと長男のミーチャは大喧嘩を始めてしまう。実はミーチャもグルーシェンカに惚れていた。

 しかし、ミーチャにはカチェリーナという婚約者がいた。ミーチャは資産家の令嬢である彼女に多額の借金があり、それを返済してグルーシェンカと一緒になろうと考えていたのだ。

 父から再婚話を聞かされ、怒り心頭のミーチャは父を殺して金を盗もうと屋敷に乗り込むも、使用人のグリゴーリィに阻まれてしまう。勢いで彼を殴り倒してしまったミーチャは、その場から逃走。グルーシェンカのもとへ向かった。

 グリゴーリィを殺してしまったと思い込んだミーチャは、最後にグルーシェンカに愛を告げ、自殺してしまおうと考えたのだ。そんなミーチャを受け入れるグルーシェンカ。ついにグルーシェンカから愛の告白を得たミーチャであったが、その直後現れた警察に逮捕されてしまう。なんとフョードルが殺害され大金が消えたというのだ。

 裁判での証言はミーチャに不利なものばかり。殺したと思ったグリゴーリィは生きていて、ミーチャがフョードルを殺害したと証言。次男ワーニャもミーチャを疑っていたが、三男アリョーシャは「料理番であるスメルジャコフこそ犯人である」と主張する。確かにスメルジャコフはフョードルの私生児と噂されており、以前に犯行を仄めかす発言もしていた。疑念を抱いたワーニャがスメルジャコフに問いただすと、犯行を自白する。しかし、法廷に立たされる前に自殺してしまう。

 裁判はワーニャの「スメルジャコフが犯人である」という証言もあり、ミーチャ有利に進行する。しかし「父を殺して金を手に入れる」という旨の、ミーチャが酔った勢いで書いた手紙が決定的な証拠となり形勢は逆転。有罪となったミーチャはシベリア流刑懲役20年を言い渡されてしまう。

 判決後、周囲に脱走をすすめられる中、ミーチャは思い悩み、アリョーシャに心中を吐露し、問いかける。これは親殺しを企てた自分への罰なのかと。そして、この十字架を背負って生きていくべきなのかと。

<第55回に続く>

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