『雪女』あらすじ解説。今夜のことを決して言ってはいけない――。最愛の妻は雪女でした。

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/12

雪女』というお話をご存じですか。日本各地に雪女の伝承があり、どれも少しずつ話の内容は異なるのですが、雪女の存在は昔から信じられており、畏怖の対象になっていたことが分かります。本稿では、小泉八雲が再話した『雪女』について、作品の解説と登場人物、あらすじをご紹介します。

雪女

『雪女』の作品解説

 雪女の伝承は、日本各地に伝わるお話で、地域によってお話の内容が異なるほか、登場人物や雪女の姿、雪女の名前などに違いがあります。雪女の歴史は古く、室町時代にはすでに伝承がなされていたようです。

 近年童話や絵本などで描かれる雪女は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が妻の節子から聞いた雪女の話を再話して1904年に刊行された『怪談』のなかに所収された物語を基にしていることが多いです。

『雪女』の主な登場人物

巳之吉(みのきち):18歳の木こり。茂作の年季奉公人。

茂作(もさく):年老いた木こり。ある冬の日に巳之吉を連れて山に出かける。

雪女:吹雪の山のなかに姿を現す美しい女性の姿の妖怪。

お雪:雪女に遭遇した1年後のある日、巳之吉の前に現れた女性。

『雪女』のあらすじ​​

 武蔵国のある村に、茂作、巳之吉という木こりが住んでいました。茂作は老人で、巳之吉は茂作の家に年季奉公に出ている18歳の少年でした。

 彼らはいつものように、2里離れた森へと出かけましたが、その帰りに大吹雪に見舞われてしまいました。ふたりは森から出て、大きな川の渡し場に来ましたが、渡し守は帰ってしまっていたのでした。吹雪なので泳いで渡るというわけにもいかず、ふたりの木こりは渡し守の小屋に避難しました。

 しかしその小屋は火鉢がなく、火をたく場所もなかったので、ふたりは小屋の戸を閉めて、寒さに耐えて寝ることにしました。

 やがて巳之吉は、顔に雪が当たるので目を覚ますと、小屋の戸が開いていました。小屋のなかに、雪明かりで白装束を着た女性が照らし出されました。彼女は茂作の上にかがんで、息を吹きかけていました。彼女は、巳之吉の方を振り向きましたが巳之吉は恐怖で声も出せませんでした。

 しかし、女性はこう言うのでした。「あなたは若いのだから、私はあなたを害しはしません。しかし、もし今夜あったことを誰かに話したら私はあなたを殺します。覚えていらっしゃい」。翌日の朝になって吹雪は止みました。渡し守が小屋に戻ってくると、死んでいる茂作と気を失っている巳之吉を発見し、巳之吉は介抱されました。

 それから1年が経った冬のある晩、同じ道を歩く女性に、巳之吉は声をかけました。たいそう美しいその女性と並んで歩いて話をしていると、その女性は「お雪」であると言いました。村に着くまでにいろいろと話をしているうちに、互いにたいそう気に入って、巳之吉は彼女を家に泊めて休ませ、やがてお嫁さんとして迎え入れました。

 お雪は大変良いお嫁さんになりました。5年の月日が流れ、巳之吉の母は亡くなる際に、お雪に対して愛情と称賛の言葉を残します。巳之吉とお雪との間には、10人の子どもが生まれました。お雪は10人の子の母となった後も初めて村に来た時と同じように若く見えるので、村の人々は不思議がっていました。

 ある晩、子どもたちが寝静まった後、巳之吉を針仕事をするお雪を見て言いました。「お前を見ていると、わしが18歳の少年の時にあった不思議なことが思い出される。わしはその時、今のお前のように綺麗な、そして色白な人を見た。全く、その女はお前にそっくりだったよ」。巳之吉は話を続けてと言われるままに18歳の時にあったことをすべて話してしまった。

 すると、お雪は縫い物を投げ捨てて言った。「それは私でした。あなたがあの時のことを一言でも言ったら、あなたを殺すと言いました。でも今あなたは子どもたちを大事になさる方がいい、もし子どもたちがあなたに不平を言うべき理由でもあったら、私はそれ相当にあなたを扱うつもりだから」。

 そう言い残してお雪は輝く白い霞(かすみ)となって消えてしまい、煙出しの穴から外へと出ていき、二度と巳之吉の前に現れることはありませんでした。

『雪女』の教訓・感想​​

 お雪は、雪女に出会ったことを話してしまった巳之吉を、本来であれば殺すはずでした。しかし、お雪は巳之吉を手にかけなかったばかりか「もし子どもたちを悲しませるようなことがあれば、私はあなたを許さないよ」という意味の言葉を発しています。これは、雪女であるお雪の心に、母性というものが芽生えていた証と言えるでしょう。

<第25回に続く>

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