まつもとあつし 電子書籍は読書の未来を変える?

更新日:2013/8/14

原書のニュアンスをKindleで知る

仲俣:今は、Kindleを買って洋書を読むのに使っています。2010年の秋から、AmazonがKindle用に出している英語の本を日本からも買えるようになりました。僕の場合、日本で翻訳が出ている本を日本語で読んで、原書も参照してみたいと思うケースがときどきあるんですね。Kindle用の電子書籍は日本円で1000円程度で買えるので、英語版を電子書籍で買うことにためらいがなくなりました。だいたいの本は、ちゃんと電子書籍版も出ているんですよ。仕事用とは言え、わざわざ紙とデジタルの両方を律儀に買っている訳です(笑)。

――なるほど。

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仲俣:いまのところ英語の電子書籍で通読した本はありませんが、ひとつの章まるごととか、必要な部分はじっくり読んでいます。少なくとも現時点で、英語の本をKindleで買うことと、アプリで電子書籍を買ってiPhoneで読むことの二つは、自分の読書生活のなかで定着していると言っていいと思います。

先日、199ドルという低価格で新型(Kindle Fire)も投入されたKindle。まだ日本語の書籍は殆どラインナップされていませんが、仲俣さんの様に、原書の表現を確認したいときに既に役立てている研究者がわたしの周囲にも居ます。日本での登場がいつになるのか、読者や本に関わる人々も固唾を飲んで見守っている段階です。

読書専用端末とメディアタブレット

――メディアタブレットは電子書籍専用端末に比べると多機能な分、動作や操作が煩雑になる部分は否定できません。しかし、それはいずれ解決されていくはずです。そうなると、読書専用端末の意味が果たしてどれぐらいあるのかなと感じています。

仲俣:電子ペーパーの画面は、やっぱり読みやすい。だから僕もKindleの端末でもけっこう読んでいますが、Kindleのよさはそれだけじゃない。PCでもMacでも、iPhoneアプリでもどこでも続きを読める。つまり電子書籍のコンテンツはクラウド上にあって、そこへどの端末からでもアクセスできるというのが、Kindleのサービスの本質ですよね。そういう全体のなかにあるからこそ、専用端末も許容できるのかもしれません。完全にこの端末の中だけでクローズドだったら、いくら電子ペーパーでもキツイかなという気はします。

ここ数ヶ月、国内外で実は電子書籍、端末を巡る動きがまた激しさを増しています。9月末にはソニーが、電子書籍専用端末の新型を発表し、Kindleのように端末から直接本が購入できるようになるなど、キャッチアップの動きを強めています。業界からはスマートフォンへの期待が高まる、一方で、ソニータブレットのようにメディアタブレット端末もメーカー各社は投入しており、電子書籍の主役が果たしてどれになるのかも注目されるところです。

デジタルに完全に置き換わる、ことはない。

仲俣:自分の家にあまりにも本の量が多くて整理がつかないから、これらがすべて電子データになったらいいな、といつも思うんですが。たぶん今ある家の本すべてを自炊してPDFで持っていても、きっと紙より使いづらいだろうと思うんです。

電子書籍が仮に1万タイトルまで増えたとしたら、それらを整理整頓するためのソリューション――たとえばプラットフォームを越えたファイルキャビネットや検索用のアプリなど――がなければ、膨大なPDFや「電子書籍」がただ溜まるだけです。震災の経験もあり、一度は紙で持っておく本の数を減らそうとしたんですが、ちょっと待てよ、と思った。

一部の人がいうような、紙の本がデジタルに単純に置き換わっていくという未来が来るとは、今はあまり思えなくなっています。紙は紙で、いまよりはずっと落ちぶれていくかもしれないけれども、残るだろう。電子書籍に関しては、紙の本の単純なデジタル化とは違うサービスとして定着する気がします。現時点では、紙で買った本のデータはデジタルでも必ず読めるという、紙とデジタルのハイブリッドが好ましいですが、そういう例はあまり耳にしませんね(笑)。