まつもとあつし 電子書籍は読書の未来を変える?

更新日:2013/8/14

――ところでEvernote(※)は使ってらっしゃいますか?

仲俣:使ってます。でも、まだ、あんまりうまい使い方ができていません。むしろネット上の情報収集や整理はFacebookですることが多いですね。気になったサイトや記事はFacebookにリンク先を転送しておいてあとで見る。Twitterのタイムラインでもいろんな情報が流れてきますけど、なるべくFacebookのほうにクリップするようにしています。

本を「読んで終わり」では勿体ない、ということで、「スマート読書入門」ではEvernoteに読書メモを取る方法について解説しています。クラウドサービス登場以前は、メモを無くしてしまったり、後から必要なものを探し出すというのはとても骨が折れる作業だったのですが、今や保管や検索の苦労は殆ど無くなったわけです。また、仲俣さんが触れたTwitterについても「ソーシャル・リーディング」のための重要なツールとして紹介しています。

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――ブログやソーシャルブックマーク(インターネット上でブックマークを共有するサービス)などはどうですか。

仲俣:僕は2003年から2009年まで、はてなダイアリーで【海難記】というブログをずっと書いていました。いわばブログのヘビーユーザーだったんですよ。ところが2009年にTwitterを始めた瞬間、それまで憑かれたように書いていたはてなを更新しなくなってしまった。もちろん、同時に「マガジン航」というサイトの編集をはじめたことも大きいんですが、一気に熱がさめてしまったんです。

――ブログを使わなくなった理由はなんだと思いますか?

仲俣:おそらく自分のなかで、ブログのリズムと生活のリズムがうまく合わなくなってきたんですね。ブログより早くて繊細な時間の流れが感じられる、ソーシャルメディア、ソーシャルネットワークのほうにシフトしてしまった気がします。

――Facebookだとでも、確かに、クリップするとサムネールを選べたりとか、あとまあ、けっこう自分のソーシャルグラフからフィードバックあったりするのはいいかなと思うんですけど。あとで検索したりとか、けっこう面倒くさくないですか?

仲俣:いまのところネット上のフローの情報は、少なくとも物を書く仕事の上では本格的に使っていないからだと思います。何か腰を据えて書こうと思ったときには、圧倒的に本に書かれている情報が役に立ちますから。

――本、つまりストック情報ということですね。仲俣:そうですね。もちろんまだ本にまとまっていない、新しい話題や知見もたくさんありますが、そういう場合はGoogleでウェブを検索しなおすことが多く、その都度クリッピングすることはしていません。将来的には、そこに電子書籍が加わることで、ストック情報とフロー情報がうまいかたちで連動していくかもしれない。自炊された本のPDFも、電子書籍のePubも、Webのクリッピングもすべて一元管理できるようなインターフェースがあると理想的ですね。

――そのクリッピングのツールとしてEvernoteを使うということは、考えていますね。それこそ、読んで感じたことを書いたりとか。

借りた本の一部を引用したい場合に、スマホのスキャナソフトで撮影してしまいます。それをEvernote(プレミアム版)にアップロードしておけば自動的にOCR(テキスト認識)してくれるんです。そうすれば後からテキスト検索の対象にもなる。

仲俣:なるほど、それはいいですね。紙の新刊本の書評をするときは、ホントは読みながらその都度メモを取っておくのがいいんでしょうが、集中して読んで、覚えているうちにすぐ書いてしまうことのほうが多いです。でも電子書籍ならば、本にどんどん気楽にメモできるかもしれない。

Evernoteは、iPhoneやAndroid端末のような各種スマートデバイスに対応したメモアプリです。記録したメモは自動的にサーバー(クラウド)と同期され、パソコンなど他の環境でも参照、編集することができます。「スマート読書入門」では、Evernoteを読書メモツールとして活用する方法を解説しています。

Twitterにつぶやくという「初期衝動」

仲俣:そのときに、あとで書評を書くと決めている本のことを、お金をいただく原稿を書く前につぶやいたりしていいのか、という現実的な悩みも一方ではあるんですよ(笑)。

少しばかりつぶやいたからといって、書評を載せる媒体にご迷惑をかけることはないはずなんですが、本を読み終わって最初に思ったことが、だいたいいちばん面白いことなんですよね。ついそれを書きたくなってしまうわけです。

――Twitterとかに(笑)

仲俣:そう、構えて書く書評よりも、初期衝動に基づいた140字のほうが、絶対いいことを書けるんですよね(笑)。

――反論やフィードバックがあるとさらにおもしろくなることもありますよね。

仲俣:そうなんですよ。つまり、書評が書かれるまえに、すでに本についての対話が実質的にネットで始まってしまうんです。

個人的には、そちらのほうが新鮮だし、得るところが大きいんです。ヘンな話ですが、僕は自分で書評の仕事をしておきながら、他の人の書いた紙のメディアの書評はほとんど読みません。基本的に、他人の書評を読んで、自分が読む本を決めるということはないんですよ。

でも、FacebookやTwitter上でちょっとした言葉が流れてきて、それを見てオッと思ってその本を読んでみようと思ったことは何度もある。ここには案外、ものすごく大きな問題が含まれているかもしれません。

――書評の存在意義が問われる。

仲俣:そうとも言えるし、逆に言えば、いわゆる「ソーシャル・リーディング」の可能性が広がるわけです。僕も含めて、いまソーシャル・リーディングに興味を持っている人がふえていますが、生真面目な「読書会」的な本の読み方のほかに、行動的な読書の可能性がソーシャル・リーディングには含まれている気がします。

紙メディアの書評よりアルファブロガーのほうが本を売る能力をもってきたのが、ブログブーム以後の趨勢でしたが、今度は広義のソーシャル・リーディングによって、次の段階がやってくる気がしています。Twitterなどで本の感想を共有する人の増加や、ブクログなどWeb系の読書共有サービスの拡がり方、さらには「自炊」のブームに比べると、端末・キャリア・出版社といった電子書籍陣営の動きが、ものすごく遅く見えてしまうのが残念ですね。

本を読んだときに得た感動・感銘は、少し時間が経つとあっという間に忘れ去られてしまいます。いままでそれは避けがたいことだったのですが、Twitterなどのソーシャルメディアを活用することで、それを記録するだけでなく、周りの人々にも共有し、訴えかけることができるようになったのは、大きな変化です。その変化をいち早く取り入れることを「スマート読書入門」ではお勧めしています。

 

後編ではその変化がもたらす影響をさらに探っていきます。

「まつもとあつしの電子書籍最前線」記事一覧
■第1回「ダイヤモンド社の電子書籍作り」(前編)(後編)
■第2回「赤松健が考える電子コミックの未来」(前編)(後編)
■第3回「村上龍が描く電子書籍の未来とは?」(前編)(後編)
■第4回「電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形」(前編)(後編)
■第5回「電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社」(前編)(後編)
■第6回「電子書籍は読書の未来を変える?」(前編)(後編)
■第7回「ソニー”Reader”が本好きに支持される理由」(前編)(後編)
■第8回「ミリオンセラー『スティーブ・ジョブズ』 はこうして生まれた」
■第9回「2011年、電子書籍は進化したのか」