ホラー作家・岩井志麻子が語るオトコとオンナの“恐怖のツボ”|夏のホラー部第3回

公開日:2015/8/22

――Lさんの絡み以外での心霊体験はありますか?

岩井:それがないんですよ。ホラーを書いてるのに、これではいかんと思うんですが。うちの息子はあるって言ってます。

――息子さんのエピソードは何度か書かれていますよね。

岩井:息子は一時期、歌舞伎町のラブホテルで清掃のアルバイトをしてたんです。母親にネタを提供しようという健気な気持ちから(笑)。ある部屋の掃除を済ませて、次の部屋に移動しようとすると、玄関先にぼんやり女の足が立っているのが見えた。それを見た息子は「つまんねえな、出るならもっと工夫してみろよ」みたいなことを言ったんです。

――お化けを挑発したんですか。

岩井:その晩、バイトを終えて家に帰ろうとしたら、なぜだか足が暗い路地の方に向いてしまう。そのまま歩いていくと、突き当たりにぼろぼろの廃屋が建っていて、何気なく覗きこんだら、ぺたっ、ぺたっと裸足の足音がしていたっていうんです。慌てて駆けだしたら、足音が後ろからぺたぺたとついてきて、大通りに出たところでやっと消えたと。馬鹿にしたから、リベンジに出てきたかも知れないっていう話なんです。

――岩井さんの絵本『おんなのしろいあし』(岩崎書店)の元ネタはそれだったんですね! 息子さんの体験談では、『現代百物語 悪夢』に入っている「息子が廃墟で遭遇したもの」も恐ろしかったです。

岩井:息子はわたしに似てそういう話が好きなんですよ。有名な廃墟ホテルを見物するために、岡山の実家に帰るのにわざわざ兵庫で途中下車して。山の中にあるコンクリートの廃墟を見ていたら、がさがさっと草が揺れて、野犬かなと身構えていると、全裸の男が四つん這いになって歩いてきたっていう。息子は「野犬じゃなくって助かった」って言ってますけど、わたしに言わせりゃ、全裸のおっさんの方がずっと怖い(笑)。何を怖がるかっていうのは、本当に人それぞれだなと思います。

――怖さのツボにも対応できるのが、このシリーズの魅力だと思います。シリーズの今後について予定は?

岩井:待っていてくださる方も多いシリーズなので、求められる限りは書いていきたいと思っています。最近は川奈まり子さん、花房観音さんと『女之怪談』(角川春樹事務所)も出しました。こっちも実話系の怪談で、帯の文章を“ハムスターおじさん”こと、平山夢明先生にお願いしてますので、あわせて読んでみてください。

――書けば書くほど怪談が寄ってきそうですね。今日はありがとうございました。

取材・文=朝宮運河

(プロフィール)
岩井志麻子●1964年、岡山県生まれ。99年「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。同題のデビュー短編集で第13回山本周五郎賞を受賞する。『夜啼きの森』『べっぴんぢごく』『恋愛詐欺師』「備前風呂屋怪談」シリーズなど多数の著書がある。

(書籍情報)

現代百物語 妄執
著者:岩井志麻子
出版社:KADOKAWA
価格:520円(税別)

女之怪談 実話系ホラーアンソロジー
著者:川奈まり子、花房観音、岩井志麻子
出版社:角川春樹事務所
価格:600円(税別)