宮沢賢治『注文の多い料理店』あらすじ紹介。恐ろしくも少し可らしい、山猫の人食いレストラン

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

『注文の多い料理店 (角川文庫) (宮沢賢治/KADOKAWA)

 2人の若い東京の紳士が山奥を歩いていた。ぴかぴかの鉄砲と白熊のような犬2匹を携えて猟をしていたが、まったく成果が挙がらない。山は物凄く不気味で、2匹の犬も泡を吐いて死んでしまう。犬の損害額に落ち込み山から引きあげることにした彼らは道に迷い、その上空腹に襲われて弱気になる。

 その時ふと後ろを見ると、そこには立派な西洋造りの一軒家がある。そして玄関には、「西洋料理店 山猫軒」という札が出ていた。「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」と書かれていることに安堵し店内に入った2人の目の前に、再び扉が現れる。

 扉の上には黄色い文字で、「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」と書かれている。2人はこの文言を「客が多く注文が込み合っている」という意味だと捉え、さらに奥に進む。すると扉はまだまだ続き、その度に「髪をといて、履物の泥を落としてください」「鉄砲と弾丸をここに置いてください」「帽子と外套と靴を脱いでください」「壺の中のクリームを顔や手足に塗ってください」など、2人への「注文」は続く。2人はこれらを「よほど偉い客がきているのだろう」「気が利く店主だ」などと好意的に捉え、どんどん店の奥へと進んでいく。

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 進んだ先の扉の裏側には、「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください」と書かれている。ここで初めて2人は、この店は「客に西洋料理を食べさせる店」ではなく、「客を西洋料理にして食べる店」だと気づき震えあがる。

 逃げようとするも扉が開かず、2人は顔がくしゃくしゃになるほど泣いてしまう。するとそこへ、死んだと思っていた白熊のような犬が2匹飛び込んで来て、さらに奥の扉を突き破ると、暗闇の中で「にゃあお、くゎあ、ごろごろ」という鳴き声がして、山猫軒の建物は霧のように消えていった。

 そうして2人の紳士は無事に東京に帰ることができたが、泣いて紙屑のようになってしまった彼らの顔は、2度ともとには戻らなかった。

文=K(稲)