SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」がスタート! 第1回「魔法の箱」

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公開日:2021/7/27

「満席なんですウ」

 これだ。

 小さく足踏みしてしまう程にお腹を空かせた男の善意により派生した事態。二組以上が相乗りする状態に、一方の善意を一握り加えることで、エレベーターは本来の順番を逆転させてしまう魔法の箱に変わる。

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 繰り返すようだが、文句を言いたいわけではない。そして特別に感謝をされたいわけでもない。発端は善意だ、だからこれはあくまでも不思議な気持ちなのだ。

 そもそもこの結果も含めてレディーファースト(男であった場合も同様)であるからして、ぶーたれるくらいなら初めからそんなこと言うんじゃねエ、という意見も受け入れますし、先に降ろしてもらった側が今度は後から降りることを選んだ側に返礼すべきだとか、そういった定型じみた形だけの善意の応酬になっても気持ちが悪いことも承知している。

 なかなかにねじ曲がったことを言うようだが、そこに悪意が少しでも存在してさえいれば責められるのに、とも思ってしまう。人の善意をなんたらかんたら、二時間だって三時間だって文句を垂れることも容易いのに、と。

 しかし悪意が存在しないこの状況、責めることは善意を無に帰すどころか自らをしみったれた人間に変えてしまいかねない。だから文句は死んでも言ってやるものかとそんな風に思っている。

 ただ、このどうにも報われない事態は少しの想像力、双方の認識によりなくなる事態だと思うので、気持ち悪くならない感じで双方が気持ち良くなれたらいいのになアなんて思いながらこれを記している。

 不満ではない。不思議な気持ちなのだ。

 正直に言ってもいいのなら、不満寄りの不思議な気持ちなのだ。

 だから私は決してしみったれてなどいない。

 

リハーサルをする私です。

<第2回につづく>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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