午前2時から1日が始まる新聞奨学生たちの青春コメディ!『午前2時しょうがくせい』/マンガPOP横丁(98)

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公開日:2022/2/18

午前2時しょうがくせい
『午前2時しょうがくせい』(江戸キリエ/幻冬舎)

 今回ご紹介するのは、『午前2時しょうがくせい』(江戸キリエ/幻冬舎)。このタイトルを目にした瞬間、「午前2時……小学生!?」という超ベタでどうしようもない反応! 当然だが、小学生が午前2時に何かする物語ではありません。この作品の“しょうがくせい”とは“奨学生”、つまり経済的な問題で学業を断念しないよう、学校や民間企業などが支援する学業資金である“奨学金”を使って学校へ通っている学生のことだ。進学した学校の特待生扱いによる支給など奨学生には様々あるが、新聞販売所で働くことで奨学金が支給される“新聞奨学生”というのがあるのをみなさんはご存じだっただろうか? 私はこの作品で初めて知ったのだが、彼らの生活がいわゆる一般の学生生活とは異なり、それがとても新鮮で実に面白かった。


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1日の始まりから修羅場!知られざる新聞奨学生の実態

 芸術家になることを夢見て美術系の専門学校に入学した蛇島くんは、この春から新聞配達所で働き、支給された奨学金で学校へ通う“新聞奨学生”となった。そんな彼の“朝”はとてつもなく早い。街が深く寝静まっている午前2時。起床後すぐ作業服に着替え、朝刊の配達準備をするところから1日が始まる。この日の睡眠時間はたった5分! なぜなら学校で出された課題にギリギリまで取り組んでいたのだ。なぜそれができるのかというと、蛇島くんは販売所と同じ建物の寮で生活しているから。仕事は待ってはくれない。販売所にはすでにこれから配達する朝刊が到着しており、夜明け前までの担当区域のポスト投函の完了を急がなければならなかった。投函が終わっても安心できなかったり、夕刊の時間帯でも試練が訪れたりと、1秒でも制作時間が欲しい学業と両立させることがかなり過酷であることを思い知らされる蛇島くん。さらに共に働く仲間の奨学生たちと過ごす寮生活もかなりクセありと、蛇島くんが思い描いていた華やかな学生生活とはかけ離れたものだった!

 楽しいキャンパスライフを想像していた蛇島くん、ご愁傷様である。きっとアルバイト先で女の子とのキャッキャ展開も夢見ていたハズだ。しかし同期の女子のリアルな姿に目がハート、どころか白目をむく絶望展開になるなんて思ってもいなかっただろう。さらに職場での仲間の呼び方が「1区、2区」と担当の配達区域なので、その雰囲気は理想の青春とは程遠い。蛇島くんはどちらかといえば天然キャラなのだが、常識人みたいな位置にいるくらいキャラの濃い仲間たちとの寮生活が過酷ながらもコミカルに描かれている。

 そして飛び交ういろいろな職業用語、遭遇する新聞配達あるあるなど新聞配達という仕事の内情がわかり易く描かれている。ちなみに読んでわかったことは、「不着宣告と元旦は地獄」ということだ。ジャンル的にも珍しいこの作品、特に新聞配達の経験がない人は、貴重な仮想体験をしてみてはいかがだろうか?

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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