「どんどん妄想をしよう!」内田 樹×名越康文×橋口いくよ 勝手に開催!国づくり緊急サミット

更新日:2013/8/6

妄想は共有すると、さらに叶いやすくなる。

内田 僕は、昨年、凱風館という道場を作ったんだけれど、それまでずっと「道場が欲しい、道場が欲しい」って言ってたの。ずうっと言っていると、なんとなくまわりの人たちもそのうち道場が出来るもんだって思い出しちゃった。あるとき門人の一人が「先生、道場のロッカーに私物置いていいですか?」って訊くから「だめだ」って言ったの。「先生、車は何台駐車できますか?」って訊かれたこともある。「ごめんね、オレの車を停める一台分しかないんだ」って僕も答えた。そういう話をしているうちに、道場についての妄想がどんどん具体的になっていった。

名越 私物置いていいですかって質問、すごくいいですよね。そこにはもう道場あるもん!

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内田 あの質問はすごく大きかったな。その時に「道場はできる!」って確信した。確信したら出来るんだよね。

名越 出来るもんなんですよねー。僕はね、今、いつ行っても講義が出来るスペースが欲しいの。あ、じゃあ、それについて、今後はいろんな人に質問してもらうことにしようかな。ハッとする質問が出てくるかもしれない。

橋口 そのスペースには、コウモリの置物は置きますか?

内田 ふふふふふ。

名越 コウモリって! なんで急に! あんな逆さになってる生き物の置物を。

橋口 いや、想像もしないものが存在するのが未来だからさ。置かないなら置かないで「コウモリの置物は置かない講義スペース」っていう具体性が出てきますよね。想像もしないようなことを質問してくる人がいればいるほど、具体性が高まる気がする。あるなしあるなし、ってやっていくなかで「ん? ありかな? どっちだ?」とかっていう、グレーな部分も含めて出来てくってことですもんね。

名越 確かにそうです。悔しいけど今、コウモリの置物は置きたくないから置かないという形がひとつできてしまった。でも、そうやって予想外の形をとりながら物事って実現していくものなんですよね。

橋口 この際そのスペースにはコウモリを置いて欲しいので、実現した暁にはこっそり置きに行きます。こうやって具体的な妄想を共有!

人間にとって「しかない」という状況は、非常にクリエイティブなこと。

名越 妄想をそうやって増やしていって、その妄想の中のひとつが現実となって目の前に現れた時、内田先生がおっしゃったように、人は「もうこれだ! これしかない!」と思ってそれを信じ、全力で走って夢や願いを叶える。それってある意味、その時の人間には「今、目の前で起こっていることを、いかに良きものとして捉えていくか」しかないとも言えるんですよ。実はその“しかない”という状況は、そこに全力を注ぎ込むわけですから、もの凄くクリエイティブなことなんだとも言えるんです。

橋口 ひとつの想像や妄想をきっかけに、現実のものとして形にしていくわけですもんね。本誌でも詳しく触れましたが、そうやって何かを叶えよう、形にしようとする時に、とても重要になってくるのが「幻想の域に行ったら終わり」って話なんですが。

名越 そこは本当に気をつけなければならないんです!

橋口 名越先生は、プロレスラーになってジャンボ鶴田と戦う幻想があったと本誌では熱く語ってくださいました。

名越 ……あと、実は、他にもリズム&ブルース的なスターになるっていうのもあったんです。大会場で自分が歌ってるみたいなことは、中学の時何千回とシミュレーションしました。もう、土の匂いまでしてくるの! うわーっていう熱気とか、ペプシコーラとか飲んでる上半身裸のにいちゃんとか、トンボみたいなサングラスかけて帽子かぶったおねえちゃんたちがブワーッといる会場で、歌ってる自分がいる。

橋口 歌うのが大好きで、実際少しだけ習ってらっしゃったりしたこともあるんですよね。しかも、けっこう細かいところまで、そうやって妄想していたのに! 

名越 でも僕のそれは体感を伴う妄想じゃなくて、結局、幻想の域に出て悦に入りすぎたんだと思います。悦に入ると、人はそこで完結しますから、そこから先にいけないんですよ。

橋口 これはあくまで「幻想がダメ」ってことで、歌手とか宇宙飛行士みたいな誰もがなれるような仕事じゃないことを妄想するなってことじゃないんですよね。どんな夢でも叶えたいなら目の前の出来事や明日の出来事と同じようにリアルに、細かく、数多く、悦に入らず、体感を伴いながら想像、妄想をしましょうっていう。例えば、明日の会議だって、来月のテストだって、1時間後のバイトの面接だって、夕飯ひとつ作るにしたって想像、妄想が大事で、それと同じように叶えたい夢についても妄想しなければならない。強く願うからって、ただ「お願いしますお願いします。ああなりたいです」って、ひたすら思っててもしょうがないってことですよね。

名越 実現させたいならば、漠然とした妄想では難しい。

内田 強く念じるということは、細かく妄想するってことだからね。