姉の機嫌をとるためにお小遣いを貯めて買った、“Mr.Children”のCD/片岡健太(sumika)『凡者の合奏』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

 あなたは、身近にいる人との縁や繋がりのきっかけを考えたことはありますか?

 今回ご紹介する書籍は、人気バンドsumikaの片岡健太さんと、彼と関わる人々との記録を綴った人間賛歌エッセイ『凡者の合奏』。

 多くの絶望や数々の挫折を経験してきたなかでも、それ以上に人との関わりに救われた片岡さん。

「さまざまな人にとっての“sumika(住処)”のような場所になって欲しい」バンド名の由来にもあるように、sumikaの音楽はとにかく優しく、人への愛にあふれている。

 彼が織り成す、そっと背中を押してくれるような優しい言葉の源とは――?

「特別な才能があるわけじゃない」「1人では何もできない」「昔も今も常にあがいている」、凡者・片岡健太さんのすべてをさらけ出した一冊。オール本人書き下ろしに加えて、故郷の川崎市や思い出の地を巡った撮り下ろし写真も多数収録。また、『凡者の合奏』未収録写真を、ダ・ヴィンチWebにて特別公開いたします!

 7歳上の姉とは、喧嘩してばかりだった。そんな姉がMr.ChildrenのCDを欲しがっていることを聞き、お小遣いを貯めて姉よりも先に買いに行くことに。

※本作品は片岡健太著の書籍『凡者の合奏』から一部抜粋・編集しました

凡者の合奏
『凡者の合奏』(片岡健太/KADOKAWA)

凡者の合奏
写真=ヤオタケシ

ギフト

「ミスターチルドレンのシーディーください」

 自分が今から何を買うのかが不明なまま、レジで明確な注文をするのは、後にも先にも、このときぐらいだったのではなかろうか。店の制服を着崩し、長髪をなびかせた男性店員が持ってきたのは、軽くて薄いコンパクトなプラスチックだった。

 僕が時間をかけて貯めたお小遣いが、こんなに小さなプラスチックと交換されるのか、とひどく悲しい気持ちになったのを覚えている。僕はミスチルについて、まったく知識がなかった。最初は、ミスチルとMr.Childrenが別物だとすら思っていた。そんな状態の僕が、なぜ大切なお金を使ってCDを購入したかというと、それは7歳年上の姉が、当時最も欲しいものがミスチルのCDだったからだ。

 僕には2人の姉がいる。10歳年上の長女と、7歳年上の次女。長女とはケンカした思い出があまりない。一方、次女とは仲良かった思い出があまりないくらい、ケンカが絶えなかった。

 次女の反抗期と僕の人格形成期が重なってしまったせいで、衝突が多かったのだと大人になった僕は思っている。

 何をやっても文句を言ってくる姉に対し、文句を言われない方法を考えた結果、辿り着いたのが冒頭の僕の行動である。姉が欲しいものを、姉より先に買うこと。

 7歳年上の女性に対し、自分の物差しで測ったもので勝てる気がしないと悟った僕は、日々の姉の行動を観察し、会話を盗み聞きした。そしてある日。姉が母にミスチルのCDをねだっている現場に出くわし、姉の機嫌が良くなるものはミスチルのCDだという情報を得たのだった。

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