姉の機嫌をとるためにお小遣いを貯めて買った、“Mr.Children”のCD/片岡健太(sumika)『凡者の合奏』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

 僕は早速、ミスチルのCDが買える場所と金額だけを母親に聞いて、「爺ちゃん婆ちゃんの布団敷きアルバイト」でせっせとお小遣いを貯めた。なんとか買えるくらいになった頃、僕はCDショップへと直行し、無事に件のコンパクトなプラスチックをゲットしたという訳である。

 もはや自分が何を買ったのか、よく分からない状態で帰宅し、姉にそれを見せると「えええええええーーーー!!!」という、僕が聞いたことのない奇声を発し、狂乱した。その反応を見た僕は今日手に入れたプラスチックの価値の大きさを、姉を通して知ることができた。

 その後、二人でミスチルのCDを聴いた。姉が「ああー! いいねー!」と言っていたので、僕もとりあえず「最高だねー!」と返した。「わー! この曲好きー!」と言ったので、僕も「僕も好きー!」と言ってみた。

 正直、最初はよく分からなかった。姉が良いとか、好きと言っているものに対して、まずは全力で同調することにした。ケンカが絶えなかった僕たちにとって、同じものを好きになるという経験はこれが初めてだった。このときに知った感情と、僕が大事にしていた貯金は、決して等価交換ではなく、明らかにプラスだと言い切れてしまう気がした。

 最初はパフォーマンスで「良い」とか「好き」だと言っていたものの、自分のお金でこんなに高価な物を買った経験がなかったので、とりあえず「大切にしたい」という気持ちで、家の中や移動中の車でひたすらこのCDを聴き続けた。

 すると、ミスチルの持つ魅力が、小学3年生の僕にもしっかりと分かってくるようになる。気付けば『Atomic Heart』というアルバムの収録曲は全曲歌えるようになり、誰に言われるでもなく、一人でミスチルを聴くようになっていった。

<第5回に続く>


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