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何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

作家
中村文則
出版社
集英社
発売日
2012-02-17
ISBN
9784087467987
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「何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)」のおすすめレビュー

死刑囚の看守を通して描く「罪を犯す側と踏みとどまる側の境界線」。衝動と理性のはざまで揺れる中村文則の長編小説

『何もかも憂鬱な夜に』(中村文則/集英社)

 テレビや新聞で犯罪者の報道を見るたび、その人たちと自分との境界線はどこにあるのだろう、と考える。なぜ、こんなことを。そう思う一方で、私も何かがほんの少し違っていたら、“あちら側”だっただろうとも思う。

“あちら側”と“こちら側”。その境界線は、ひどく曖昧だ。中村文則氏の著書、『何もかも憂鬱な夜に』(集英社)に登場する主人公は、何度も危うい境界線上に立つ。

 本書の主人公には、名前がない。「僕」とだけ記された人物は、親に捨てられ、施設で育った。刑務官として死刑囚の看守を務め、心身ともに過酷な日々を送る「僕」。本書は、そんな「僕」の感情を主軸として、過去と現在を行ったり来たりする。

 主人公の「僕」には、真下という友人がいた。真下もまた、境界線上でもがく人間のひとりだった。もがき続けた末に、真下は自殺する。他人を壊してしまう前に、自分の存在を消そうと考えたのかもしれない。

 真下の死後、主人公のもとに一冊のノートが届く。そこには、真下が押し隠してきた葛藤や欲望が、びっしりと綴られていた。決して気持ちのいい内容では…

2023/4/5

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何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫) / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

抹茶モナカ

思春期に真下のように観念的雑感をノートに書いていた事を思い出した。中年になるまで実家に保管してあったけど、捨ててしまった。この小説は、思春期のモヤモヤした感覚を思い出させる。芸術作品が万人に開かれたものだ、として、生きるよすがとして提出する。思春期に出会いたかったような気もしつつ、思春期を通り過ぎないと理解できない作品のような気もする。サルトルやら、ベケットやら、思春期に紹介されても、良さはわからなかったろうし、周囲にも解説してくれるメンターもそういないだろうし。何となく幼い純文学。

2014/01/05

zero1

死刑を絡めて中村が人間を描くとこうなる。施設で育った刑務官が主人公。夫婦殺害で死刑判決を受け控訴しない山井。彼の心を開かせることができるか。懊悩をノートに記す真下。主任が語る死刑の曖昧さと矛盾。恩師が語る芸術に触れる意味。そして自分がこの世に存在する奇跡。200ページに満たない長さだが、訴えているテーマはとても深い。解説は又吉直樹。中村を「執拗に人間の暗部や実態に正面から向き合い・・・」と評している。暗く重苦しいのが中村作品の特徴だが、私は本書に希望を見た。人を生かすのは人。再読する価値あり!の一冊。

2019/02/28

先に読まれた方々のレビューを拝見していたので、多少覚悟はして挑んだ本作品でしたが、本当に一部始終どんよりとした内容で重く暗く、少ないページ数にも関わらず時間がかかりました。命と犯罪者本人とは別物、等私には難しいテーマに思えました。まだ早かったかな?と思ってしまう作品でした。

2018/11/25

ミカママ

えぇぇ、あたしダメだよこういうの、泣けちゃうよ。読み友さんたちが「難解」「合わない」ておっしゃってたので、恐る恐る手に取った作品。全体を覆う、暴力、セックス、そして孤独。あたしはやっぱり芥川賞作家さん向けの読者なのね。←自画自賛。「今のあなたが無事なら、それを1日ずつ続ければいい」人生に苦悩するあなた、絶対読むべきです。

2016/04/03

ビブリッサ

グルーミーな質感の本作。刑務官の主人公が控訴期限間近の犯罪者と言葉を交わしながら、自死した友人、己の出自、生きることと死ぬことの分水嶺を歩んできた過去を思う。自分と彼は同じ側の人間ではないのか、己や他者を喰らう鬼を飼っていたではないかと煩悶する。世間に迎合する曖昧な死刑制度にも心が沈む。最後に彼が選んだのは「まっとうに生きる」ことだった。記憶の中にある施設長の大きな慈しみに「暖」を、思春期に身体を重ねた女性からは「熱」でなく「温」を貰っていたことに気付いたのだ。彼は夜を歩き続け、やがて朝が訪れる。

2017/07/27

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