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二人キリ

二人キリ

二人キリ

作家
村山由佳
出版社
集英社
発売日
2024-01-26
ISBN
9784087718553
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「二人キリ」のおすすめレビュー

昭和の猟奇殺人「阿部定事件」犯人の生涯をひもとく。「アベサダ」と記号化された女性を「懸命に生きた人間」として描いた村山由佳の新境地『二人キリ』

『二人キリ』(村山由佳/集英社)

 私が「阿部定事件」を知ったのは、中学の社会の授業だったと記憶している。昭和11年5月18日、阿部定と名乗る女性が、愛人の石田吉蔵を絞殺し、殺害後に局部を切り落とし持ち去った。猟奇殺人として現代まで語り継がれてきた阿部定事件は、人物名と殺害方法ばかりがクローズアップされる傾向にある。しかし、事件の背景には、阿部定本人の生い立ち、彼女を取り巻く人々の想いと生活があった。残された文献や資料を頼りに、作家デビュー30周年を迎えた村山由佳氏が、「小説」という形で阿部定の生涯をひもといた新著『二人キリ』(集英社)を刊行した。本書を読んで、私の中にあった阿部定の印象は一変した。“恐ろしい女”だと勝手に思い込んでいたその人は、情が厚く感情豊かで、己の人生を懸命に生きた女性であった。

 物語は、脚本家の吉弥が、還暦を過ぎた阿部定に会いに行く場面からはじまる。彼は、吉蔵の死の真相を探るべく、10代の頃から関係者の元へ足を運んでいた。世間に出た新聞記事や阿部定に関する書物も含めて、集めた証言や資料は膨大な数に及ぶ。ある日、それらを映画監…

2024/2/9

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二人キリ / 感想・レビュー

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starbro

村山 由佳は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、著者デビュー30周年記念大作、あの阿部 定の評伝小説でした。真相は藪の中、愛欲に塗れた二人にしか解らないということでしょうか❓「定吉二人キリ」、愛の絶頂期に心中するのが、一番幸せかもしれません。私の高校の大先輩、坂口 安吾が阿部 定と対談していたとは知りませんでした。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/futarikiri/ 【読メエロ部】

2024/03/06

パトラッシュ

旧友や幼馴染、関係した男に定本人、さらに殺された吉蔵まで関係者に証言させる形で、阿部定という特異な女を描き出す。定は性愛について一切妥協せず、満たされるまで男を離さなかった。それは男にとって歓びである半面、常に定を抱かねばならない拷問でもあった。ほとんどの男が離れていったが、唯一吉蔵だけは定に要求に応じられた。ようやく見つけた理想の男を、いつか失うかもとの恐怖から犯行に至る心情が痛いほど理解できる。あらゆる面で女性が抑圧されていた当時、定は自らの愛欲に忠実な時代に反逆した女だったからこそ伝説となったのだ。

2024/03/14

いつでも母さん

『定 吉 二人キリ』この人は自分が好きなんだなぁと思った。私ならどう残すだろうって・・(汗)二人キリとは云うものの、これは阿部定と言う一人の女の物語。石田吉蔵を父に持つ波多野吉弥の眼を通して、村山由佳さんが紡ぐ情愛は思いのほか乾いて、粘度が強いと想像してた私には13章最後の〈証言〉吉蔵の気持ちで一気に覚めてしまった。これは受け止める側の問題か?むしろ吉弥とRとの関係に私の気持ちは揺れた。実在の女性の事件は後世を生きる人間の愛のバイブルとなっているか?これは好みの問題以前に犯罪ですからね。

2024/04/30

のぶ

村山さんにしか書けない作品だと思った。過去にも伊藤野枝を描いた「風よあらしよ」があったので期待していたが満足な読後感が得られた。阿部定事件の顛末を資料を駆使して詳述しながら、無理なく創作を重ねることで、より一層定と吉蔵の「二人キリ」の世界を描き切っているように思えた。いくつもの視点と証言から、虚構と事実が重なり、きららと乱反射するような物語で、男女の愛がとことん行き着くところにたどり着いた定の生き方は、猟奇的ではあるけれど、読み終わってみるとかなりの部分納得する事ができた。人間の恐ろしさも見せられた。

2024/03/12

シャコタンブルー

二・二六事件から三ヶ月足らずで起きた阿部定事件。暗い世相の中で当時の人々の狂騒と好奇心が目に浮かぶ。いつの時代でもゴシップは大衆の好物だ。「アベサダ」という悪女の代名詞のような存在から普通の人間としての阿部定を様々な視点から丹念に描き興味深い。そして最後は女として「お加代」の愛情と嫉妬と執着が恐るべき勢いで迫ってきた。「事実を超えた真実に手が届く」ページを捲りながらそれを存分に感じた。石田吉蔵の「証言」も男の愛情と優しも感じて斬新で秀逸だった。「二人キリ」の純愛は永遠に語り継がれていくのだろう。

2024/02/18

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