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月ぞ流るる

月ぞ流るる

月ぞ流るる

作家
澤田瞳子
出版社
文藝春秋
発売日
2023-11-21
ISBN
9784163917788
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「月ぞ流るる」のおすすめレビュー

紫式部と同時代、自らを“平凡な女”と称した朝児の執筆への情熱。静かな感動が染み渡る、豪華絢爛な平安絵巻

『月ぞ流るる』(澤田瞳子/文藝春秋)

 ただ煌びやかなだけ、華やかなだけだったら、平安という時代に、これほどまでに狂おしいほど惹きつけられることはなかっただろう。多くの人が、時代を隔ててもなお平安時代を描いた物語、特に宮中の物語に心揺さぶられるのは、男にしろ、女にしろ、そこに生きる人々に強い矜持を感じるためではないだろうか。栄華の陰にある無数の悲しみ、血生臭さ、怒り。それらを乗り越えて、力強く生き抜こうとする人々の強さに圧倒されずにはいられない。

 そんな時代、特に、平安中期の宮中を描き出すのが『月ぞ流るる』(文藝春秋)だ。この本は、2021年『星落ちて、なお』(文藝春秋)で第165回直木賞を受賞した澤田瞳子氏による最新刊。平安時代といえば、2024年の大河ドラマ「光る君へ」で描かれる『源氏物語』を描いた紫式部が生きた時代というイメージが強いだろうが、ここで描かれるのはそれと同時代を生きた、赤染衛門こと、朝児(あさこ)の姿だ。日本初の女性による女性のための歴史物語『栄花物語』を生み出した彼女は、宮廷で何を見、何を感じたのだろう。目の前で繰り広げられる…

2023/11/21

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月ぞ流るる / 感想・レビュー

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パトラッシュ

傍目には華やかな平安宮中絵巻の背後では、激烈な権力闘争が渦巻いていた。勝者が総取りし敗者は全てを失う残酷な政治の世界に巻き込まれた赤染衛門(朝児)は、栄華の頂点を極めつつある藤原道長が主役の物語ではなく、敗れ去ったり阿諛追従するしかない者の生き様を史書に残そうと願う。自らの娘すら権力の道具にする道長に対し、人らしい弱さや怒り故に没落した姿の涙を後世に残すのが、政治に関われない女の務めと覚悟したからだ。『栄花物語』を書くまでの朝児の成長ドラマと朝廷の群像劇が重なり、歴史の暗黒面を浮き彫りにする手腕が見事だ。

2024/01/16

hiace9000

「心にもあらでうき世にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな」 百人一首でも馴染みの歌が、帝の孤心苦衷の胸の内を吐露し苦吟されしものだったとは…。返歌として詠まれた古歌「…月ぞ長るる」は、新たな意で名場面を切り取り、鮮やかに浮かび上がらせる。赤染衛門が現世に転生したかのような、たおやかで力強く、細やかにしてしなやかな筆致は、読み手を丸ごと作品世界へ移遷させてくれるよう。"人間の世々の不変の営みと古しえより今日に至る歴史もすべて本の中にあるー" 朝児に仮託し書物を語るくだりに、今作の主題と作り手の矜持を観る。

2024/03/16

ちょろこ

赤染衛門から見た宮中絵巻の一冊。三条天皇の中宮、姸子の女房として再び宮仕えをすることになった朝児(赤染衛門)の視点で、藤原道長vs三条天皇の政争、御簾の向こうの宮中絵巻を描いた物語。ほんのりミステリ要素を含みながらの惹きこまれ感は文句なしの味わい。帝の排斥しか頭にない道長の豪胆さのその裏で流される幾つもの涙は否応なしに胸を打つほど。それを目の当たりにした赤染衛門は何を感じ、自分はどうすべきか…逡巡しながら、物語の存在意義へと辿り着く描き方が良かった。板挟み、駒にされた女たちの哀しみあっての平安時代を実感。

2024/04/17

チーママ

すご〜く面白かった。藤原道長が栄華を極めた平安の世。同じ時代を生きた女流歌人の朝児が、それをどう受け止め何に気づいたのかを描いた物語。50代半ばで寡婦になった朝児は、行動を干渉する息子、母の来し方を認めぬ娘に虚しさを覚え傷ついていたが…。ひょんなことから僧侶見習いの頼賢に学問を教えることになった朝児は、いつのまにか運命の渦に巻き込まれていく。帝と道長との対立、頼賢の憎しみの先に見えた真相に朝児は何を思うのか。めくるめく展開にすっかり夢中になった。澤田さんの奥深さを知った作品。これからも追いかけていきたい。

2024/03/29

がらくたどん

直木賞受賞時所感だったと記憶するが同じ時代小説作家の母上からの唯一の助言めいた事として「古代は売れない」と言われ内心で「面白ければよいのでは?」と思ったエピソードを披露されていた。本作、平安道長全盛三条天皇の御世。道長は異母妹(綏子)祖父ちゃんの兄弟の孫(娍子)兄ちゃんの娘(原子)が入内しているところに自分の娘(妍子)を強力プッシュせんと自分の奥さんに仕えていた赤染衛門を再出仕させる。この充分ややこしい状況に原子殺害疑惑を絡め犯人は?方法は?そして黒幕は?と既に老境寡婦の赤染が迫る。考証完璧どエンタメ♪

2024/01/04

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